春ドラマの最終話が次々に放送され、残すは『日曜の夜ぐらいは…』(テレビ朝日 ※ABCテレビ制作)と、深夜帯の『夫婦が壊れるとき』(日本テレビ)や『クールドジ男子』(テレビ東京)などのみとなった。
ゴールデン・プライム帯の主要作がほぼ終了した今気づかされるのは、放送話数のバラつき。『弁護士ソドム』(テレ東)の7話から『だが、情熱はある』(日テレ)の12話までその差は大きく、テレビ局別で見ても一定の傾向が見られた。
なぜ放送話数のバラつきが見られるのか。それぞれどんな理由があり、今後はどんな方向に進んでいくのか。テレビ解説者の木村隆志が掘り下げていく。
■各局で放送話数の違いがはっきり
まずはこの春、民放各局のゴールデン・プライム帯で放送されたドラマの放送話数を挙げていこう。
『風間公親-教場0-』(フジテレビ)全11話
『合理的にあり得ない ~上水流涼子の解明~』(フジ ※カンテレ制作)全11話
『unknown』(テレビ朝日)全9話
『王様に捧ぐ薬指』(TBS)全10話
『特捜9』(テレ朝)全9話
『わたしのお嫁くん』(フジ)全11話
『それってパクリじゃないですか?』(日テレ)全10話
『ケイジとケンジ、時々ハンジ。』(テレ朝)全9話
『あなたがしてくれなくても』(フジ)全11話
『弁護士ソドム』(テレ東)全7話
『ペンディングトレイン-8時23分、明日 君と-』(TBS)全10話
『Dr.チョコレート』(日テレ)全10話
『ラストマン-全盲の捜査官-』(TBS)全10話
『日曜の夜ぐらいは…』(テレ朝 ※ABCテレビ制作)全10話
『だが、情熱はある』(日テレ)全12話
『だが、情熱はある』の全12話が突出しているが、フジは4作すべて11話を放送。続いてその他の日テレドラマ2作が全10話。TBSが3作すべて全10話。テレ朝は4作中3作が全9話とはっきり傾向が現れた。ちなみに『弁護士ソドム』は今春テレ東が金曜20時台に新設したドラマ枠「ドラマ8」の1作目だけに、まずは様子見という感がある。
特筆すべきは、GP帯最多タイの4枠を持つフジがすべて全11話であることと、それを上回る全12話を放送した『だが、情熱はある』の評判が極めてよかったこと。ここに今後の連続ドラマ制作を占うヒントが見えてくる。
もともと連続ドラマは全12話がベースで制作され、全盛期と言われる80年代・90年代は全13話の作品も少なくなかった。しかし、21世紀に入ると徐々に全11話、全10話とベースが下がって現在に至っている。
他局が全10話をベースに制作する中、特にフジの月曜21時台と木曜22時台は全11話のベースを愚直に守り続けてきた。また、昨春に新設した水曜22時台も視聴率獲得に苦しみながら「できるだけ全11話で」という姿勢が見られ、カンテレ制作の月曜22時台もこれまでの全10話から今年に入って全11話に増えている。
フジは今秋、金曜21時台にドラマ枠を新設する方針だけに、「最もドラマに注力しているテレビ局」と言っていいだろう。そのフジがどこよりも多い全11話ベースを選んでいるところに、連続ドラマの放送話数を考える上での本質が見える。
■人物への思い入れと結末への期待感
連続ドラマをかつてのように全11~12話で描くことのメリットは、主に「大きなテーマや主要人物のキャラクターをしっかり描くことができる」こと。1クール3カ月間をたっぷり使って、大きなテーマを追うことで視聴者の興味は増し、人物を丁寧に描写することで思い入れが増していく。
実際、『だが、情熱はある』は全12話だからこそ、学生時代から現在までの長い年月を描くことができ、主人公2人の苦悩や成功に共感の声が集まっていた。さらに言えば、オードリー・若林正恭と南海キャンディーズ・山里亮太のユニット“たりないふたり”の描写が3話程度で終わったため、「もう1~2話長くてもよかった」という声もあるくらいだ。
単発ドラマや映画にはない連続ドラマの強みは、その連続性であり、クライマックスに向けて視聴者のポジティブな感情を積み上げていける。さらにテレビ放送だからこそ、多くの人々が毎週同じタイミングで楽しみ、一緒にクライマックスを迎えられることも強みの1つ。たとえば同じクオリティの作品なら、全9話より全12話のほうが、主要人物への思い入れも結末への期待感も高くなるものだ。
そんな連ドラの強みは、週5日ペースで半年間放送される朝ドラを見ても分かるのではないか。より長く楽しみ、親しめる作品ほど、感動や満足感の最高到達点が高まっていく。だから、かつては全12話ベースで放送され、現在もフジが全11話ベースを守ろうとしているのだろう。
では、なぜ全10話ベースにまで減ってしまったのか。ドラマを録画や配信で見るのが当たり前になり、ライバルとなるコンテンツやレジャーが増えるなど、以前よりも視聴率を獲得しづらくなったことが最大の理由だろう。放送話数の少ないテレ朝を筆頭に、「ドラマは9~10話程度に留めて、次のクールが始まるまでは低視聴率のリスクが低いバラエティ特番を連発する」という戦略が定番化していった。
この間、ドラマに限らず業界全体の視聴率がジリジリと低下。各局にドラマの視聴率低下を長い目で見る余裕がなくなっていた。目先の視聴率、しかも中高年層の動向が反映されやすい世帯視聴率を獲ることを目的に制作したことが、このような状況を招いてしまったのではないか。