続いて、前述した1~3月の結果には入っていなかったが、日ごろTVer内のバラエティランキング上位常連の主な番組を挙げていこう。
タレント別に見たとき最も目立つのは、千鳥とマツコ・デラックス。千鳥は『テレビ千鳥』(テレ朝)、『千鳥かまいたちアワー』(日テレ)、『千鳥の鬼レンチャン』(フジ)、マツコ・デラックスは『月曜から夜ふかし』に加えて、『マツコ会議』(日テレ)、『マツコの知らない世界』(TBS)らがランキング常連となっている。
上に書いた通り、「配信では“人”より“企画”重視で選んで見る人が多い」のは確かだが、この2組は別格ということかもしれない。現在、千鳥の2人は43歳、マツコは50歳だが、彼らよりずっと若い世代が「千鳥やマツコの番組なら笑えるだろう」と信頼しているのではないか。しかもネット上のコメントを見る限り、売れっ子MCとしての華や重みではなく、「プレイヤーの1人として面白い人だから見る」という認識が感じられる。
そして“個”の力で1つ挙げておかなければいけないのは、今春ゴールデンタイムでのレギュラー化された『それSnow Manにやらせて下さい』(TBS)。「今最もアクティブなファンの数が多い」と言われるグループだけあって、番組が配信された際のアクションはどの芸能人よりも速く、数も多い。ただSnow Manほど突き抜けたグループでなければ、これほど再生数を稼ぐことは難しく、趣味嗜好の細分化が進む中、今後このパターンはあまり生まれないのではないか。
同じ今春にゴールデンタイムでレギュラー化された番組では『まつもtoなかい』(フジ)も、常にトップクラスの再生数を叩き出している。他番組とは一線を画すゲストの人選と、長尺のトークはそれだけで特別。YouTubeや有料動画配信サービスでは見られないという意味もあり、テレビとネット両方のコンテンツに対して差別化できている。
ただ、やはりSnow Manと同様で、この番組と同等レベルをそろえるのは難しく、似た番組は生まれづらいだろう。
■笑いと楽しさ重視で情報性は不要
“個の力”という点でわずかに新たな兆しが見えるのは、『ゴッドタン』(テレビ東京)と『あちこちオードリー』(同)。どちらもTVerのバラエティランキングに入ることが多く、深夜番組だが着実に熱心なファンをつかんでいるのは間違いない。この両番組は企画や構成・演出など番組自体の面白さを求めて見る人が多く、ひいては「佐久間宣行が手がける番組だから」というファン層の広がりを感じさせられる。
ドラマにおける脚本家、演出家、プロデューサーがそうであるように、今後はバラエティも「○○さんの手がける番組だから見る」という作り手のファンがジワジワと増えていくのではないか。もしそうなら視聴の中心は配信になりそうだ。
ここまで多くの番組名を挙げてきたが、その大半に共通しているのは、「番組全体が笑いや楽しさ」で貫かれていること。また、裏を返せば、笑いや楽しさを重視する一方で、「ためになる」「知って得する」ような情報性がほとんどないことに気づかされる。
たとえば、長年“バラエティの鉄板テーマ”と言われてきた、グルメ、動物、子ども絡みの企画。あるいは、定番のクイズ番組や大規模な海外ロケ番組などは、あまりランキングに登場しない。これらは配信で見られやすいバラエティではないのだろう。
挙げなかった番組の中では、『あざとくて何が悪いの?』(テレ朝)、『トークィーンズ』(フジ)などのトークバラエティも再生数を稼いでいる。やはりどちらも「ためになる」「知って得する」ような情報性は薄く、あくまで良い意味で「大したことは話していない」のだが、その楽しげなムードがウケているのではないか。
とはいえ、まだまだバラエティには「放送収入を得るために視聴率を獲らなければいけない」という現実がある。ここまで挙げてきた「今週は何をやるのか」という期待感、ライフスタイルに合わせやすいタイミングでの配信、笑いと楽しさ重視で情報性なしの3つを優先させたら、視聴率が獲れなくなるリスクは高くなるのかもしれない。
それでも、TVer再生数の伸びを見る限り、重要な視聴者ニーズの1つとして、作り手たちはこの3つにもっと目を向けていくべきだろう。