もう少し引いてテレビ業界を見ると、民放各局にとって「バラエティの新たなヒット番組がない」という状態が続いて久しい。視聴率だけでなく話題性としても、ドラマの『silent』(フジ系)や『半沢直樹』(TBS系)のように爆発的につぶやかれ、記事が飛び交うようなバラエティがないまま推移している。
その意味で、学校をフィーチャーした企画が増えているのは、若年層につぶやかれ、配信でも見てもらいやすい「バラエティにおける『silent』のようなヒット番組が欲しい」という思いもあるのだろう。学校をフィーチャーしたバラエティは、笑いや楽しさを前面に押し出しつつ、時に感動や涙を誘うことも可能。現役の学生が自分事として見るだけでなく、年上の世代も応援したり、ねぎらいたくなったりなど感情を共有したくなることからネット上の反響が期待できる。
また、もう1つ学校をフィーチャーしたバラエティが増えている理由として見逃せないのは、「コロナ禍で窮屈な思いをしてきた学生たちを笑顔にしたい」という作り手たちの優しさ。コロナ禍に入って以降、「文化祭や体育祭、修学旅行や卒業式を通常通り行えなかった」という生徒が少なくなかった。編集された映像を見る限り、学生たちが楽しそうに笑うようなカットが多く、「この企画をいい思い出の1つにしてほしい」という意図が随所に感じられる。
もちろんテレビマンにとって視聴率や配信再生数を得ることは大切だが、決してそれがすべてではないのだろう。制作側が学生ファーストの企画を心がけ、学校側も前向きに参加させているのは、両者ともに子を持つ親が多いからなのかもしれない。
■局を超えて応援し合えるムードに
例えば「学校かくれんぼ」では、生徒たちが手を取り合って隠れたメンバーを楽しそうに探すだけでなく、見つけたときに友人と抱き合って喜ぶなどの生き生きとした表情が見られる。このように生徒たちの楽しげな姿が見られる番組は、視聴者に「若者向けの番組ならフジテレビ」という印象につながる上に、スポンサーも含めたイメージアップにもつながりやすい。
ちなみに、『新しいカギ』は休日の土曜20時台、『それSnow Manにやらせて下さい』は休前日の金曜20時台という在宅率が高くなりやすい時間帯で放送されている。一方、『超無敵クラス』は2020年11月のパイロット版から2年半以上が過ぎたが、ここまでのレギュラー放送は土日の昼か平日の深夜のみ。試行錯誤を続けるこの番組が満を持してゴールデン・プライムタイムでレギュラー化されたら、学校をフィーチャーしたバラエティはもっと増えていくのではないか。
前述したように、学校をフィーチャーしたバラエティは、いくらかの空白期間を経てゴールデンタイムに戻ってきつつある。ドラマは若年層向けの作品を着実に増やし、彼らへのリーチを進めているが、バラエティにはまだまだその動きは少ない。だからこそ学校をフィーチャーしたバラエティは、その成否を各局のテレビマンに注視されている。
実際、「『新しいカギ』は他局の番組だけど応援したい」というテレビマンも少なくないという。業界全体の活性化や未来を考えたとき、今、学生たちの心をつかんでおくことはそれほど重要なことかもしれない。