注目を集めるテレビ番組のディレクター、プロデューサー、放送作家、脚本家たちを、プロフェッショナルとしての尊敬の念を込めて“テレビ屋”と呼び、作り手の素顔を通して、番組の面白さを探っていく連載インタビュー「テレビ屋の声」。今回の“テレビ屋”は、フジテレビ系バラエティ番組『新しいカギ』(毎週土曜20:00~ ※17日は19:00~2時間SP)演出の田中良樹氏だ。

カギメンバー(霜降り明星 せいや・粗品、チョコレートプラネット 長田庄平・松尾駿、ハナコ 菊田竜大・秋山寛貴・岡部大)の総合司会で、7月20~21日に放送された『FNS27時間テレビ 日本一たのしい学園祭!』では、同期の杉野幹典氏とともに総合演出を務めた田中氏。数字面でも成功を収め、大きな反響となった実績を踏まえ、「『新しいカギ』のレギュラーにちゃんと還元できて、フジテレビの安定的な鉄板のソフトにすることが、僕のいちばんの仕事だと思います」と気を引き締める――。

  • 『新しいカギ』『FNS27時間テレビ 日本一たのしい学園祭!』田中良樹氏

    田中良樹
    1991年生まれ、埼玉県出身。早稲田大学卒業後、14年にフジテレビジョン入社。『アウト×デラックス』のADを経て、『BACK TO SCHOOL!』『関ジャニ∞クロニクルF』演出、『さまぁ~ずの神ギ問』『ホンマでっか!?TV』ディレクターなど、数々のバラエティ番組制作に携わる。現在は『新しいカギ』の演出を担当し、7月に放送された『FNS27時間テレビ 日本一たのしい学園祭!』では同期の杉野幹典氏とともに総合演出を務めた。

議論を重ねて作った若者たちへのメッセージ

――当連載に前回登場した『バナナマンのせっかくグルメ!!』『いくらかわかる金?』のTBS平野亮一さんが「『学校かくれんぼ』はうちの小学生の子どもも大好きで、いつも見ています。純度の高いバラエティで、ああやってみんなで盛り上がれる番組は、昔はうちでも『学校へ行こう!』がありましたけど、今の時代は視聴率のことを考えると結構難しいんです。でも『新しいカギ』はちゃんと結果も残している」と称賛されていました。

平野さんの番組はものすごく研究していて、もしこの連載で自分に回ってきたら平野さんの名前を挙げさせてもらおうと思っていたので、めちゃくちゃうれしいです! 『せっかくグルメ』は、世の中に刺さる理由がちゃんとある番組だと思っていて。しっかりとテクニカルに作られていながら、演出の人柄も感じるような仕上がりになっていて、そのバランス感覚を今いちばん勉強していますし、脅威にも感じています。『わかる金?』は『新しいカギ』とOA時間がかぶることもあるので。

――早速、先日の『FNS27時間テレビ』のお話から伺いたいと思いますが、本番が迫る中でオープニングアクトのKEYTALKさんから首藤義勝さんが脱退を発表したり、当日には「100kmサバイバルマラソン」に出場する金田朋子さん・森渉さん夫妻が離婚を発表したりと、想定外の事態が発生しました。

これは本番も何が起こるか分からないし、どうなるんだろう…と思いながら臨みました。

――オープニングは、コロナで青春を奪われた若者たちへのカギメンバーのメッセージ(※)からスタートしました。あの台本はどのように作られたのですか?

番組チーフ作家の樅野(太紀)さんにお願いしました。ギャラクシー賞を頂いたときの放送でも、そういうメッセージを伝えたのですが、そこも含めて評価していただいた気がしていて。『27時間テレビ』で初めて『新しいカギ』を見る視聴者の方もいらっしゃると思いますし、『27時間テレビ』の大事な振りの部分で番組の目線にもなるので、「改めてこういう思いで番組を作っていることを言いたいんです」と樅野さんに相談したら、夜中に熱い文言を送ってくださって。そこから議論を重ねて作っていきました。ちょっとこっ恥ずかしいので、スタッフにもほとんどアナウンスしないで進めて(笑)

(※)…「覚えていますか? 今から4年前、日本中の若者たちから笑顔が消えたこと。覚えていますか? 期待に胸を膨らませた若者たちの青春が奪われたこと。そんな姿を見た時、思ったんです。“こんな時こそ、大人の出番なんじゃねぇの?” 僕たちは本気で思ったんです。“こんな時こそ、テレビの出番なんじゃねぇの?” 若者たちよ、君たちが笑顔じゃないと意味がない。君たちがワクワクしてないと意味がない。我慢し続けてきたみんな、準備はいいか? いいのか? さぁ踊るぞ、騒ぐぞ」

――長田さんの「こんな時こそ、テレビの出番なんじゃねぇの?」だけ、ちょっとテンションが違っていてイジられていました(笑)

長田さんのパートは、「学校かくれんぼ」のキャラクターの隠密マサルの画を重ねると決めていたので、「隠密さんで読んでください」とお願いしたんです(笑)。カッコよかったですよね。

――カギメンバーがスタジオに登場する前のあのアバンのVTRが流れている間に、裏で霜降りさんとチョコプラさんが「ここまできたな」と涙しながら称え合っていたそうですね。

僕はサブ(副調整室)の卓にいたので見ていなかったんですけど、その話を聞いて本当にうれしかったです。

  • チョコレートプラネット (C)フジテレビ

粗品の魅力が世の中により伝わった

――最初のメイン企画が「超!学校かくれんぼ」でしたが、「学校かくれんぼ」は第1弾から1年半で大きく進化しましたし、生徒さんにものすごく浸透しているのが伝わってきました。

回数を重ねるごとに、企画名を伝えたときの盛り上がりが大きくなっています。回によっては、「新日本かくれんぼ協会」という名前を出して、「わーー!!」って盛り上がることもあるんですけど、よくよく考えたら「新日本かくれんぼ協会」は番組名でも企画名でもない、架空の団体名なのに、それで気づいて盛り上がってくれるんです。OAでは使いきれてないのですが、カギメンバーの名前を言いながら捜してくれたり、「いつも番組を見てくれてるんだな」という捜し方もしてくれるので、とてもうれしいです。

――秋山さんが生徒さんに紛れるパターンで逃げ切ったのは、初めてですよね。

そうなんです。めちゃくちゃうれしかったです(笑)。仕上がりとしては、展開も含めて完璧だったと思います。

  • ハナコ (C)フジテレビ

――生放送のスタジオでカギメンバーやゲストが「学校かくれんぼ」のVTRを見守るというスタイルでした。ここで27時間の生放送が勢いづいた感じだったでしょうか。

そうですね。それにスタジオ観覧には高校生の皆さんがいたので、一緒に見ている空間が良かったなと思います。今回の「超!学校かくれんぼ」の舞台だった横浜高校の生徒さんも何人か来てくれて、その子たちがめちゃくちゃ盛り上がりながら見てくれたので、ライブビューイング会場のようになっていました。

――そうすると演者さんのテンションも上がってきますよね。

演者さんだけでのモニタリングよりも、1個ギアがかかっている感じがしました。

――その次が、「千鳥の鬼レンチャン ~サビだけカラオケ タッグモード大会~」でした。ここで長田さんが「最初の頃はコントで数字が厳しくて、何やっていいか分からない感じで、スタッフも演者もピリピリしてた感じになっていた」と、『新しいカギ』のこれまでを振り返っていましたが、当時を思い出しましたか?

思い出しましたね…。こうして『27時間テレビ』ができて、本当に良かったと改めて思いました。終わってしまう番組って、どうしてもあるじゃないですか。でも、それぞれができるMAXで作っているから、つまらない番組はないと思っていて。だから視聴者の方に知ってもらう、ひとつきっかけを探さなきゃいけない。『新しいカギ』は「学校かくれんぼ」がきっかけになり、ラッキーでした。ただ、そのきっかけをつかむまでの時期が本当に苦しくて、長田さんの言葉にグッときましたし、支えてくれたいろんな人たちの思いもあって「耐え抜いた」という気持ちもあります。

――続いて、「さんまのお笑い向上委員会」です。

実は「超!学校かくれんぼ」は僕、「鬼レンチャン」は千葉(悠矢)、「向上委員会」は杉野(幹典)と、番組冒頭からつながる3企画はそれぞれ、『新しいカギ』を立ち上げから担当しているオリジナルディレクター3人が演出としてまとめていたんです。それぞれ違う番組の企画ですが、一緒に丸3年『カギ』をやってきた3人が「今年の『27時間テレビ』はこういうものにしたい」という思いを共有しながら、トップスピードで流れを作れた気がしています。

  • 霜降り明星 (C)フジテレビ

――そして、深夜の「粗品ゲーム」です。粗品さん、だいぶかかってましたね(笑)

「粗品ゲーム」という名前ではあるんですけど、「カギチーム」がここを盛り上げてやるぞという気持ちを感じて、他のチームも巻き込んで結果として団体芸になったという感じがあります。

――特にせいやさんは、相方さんの発案したゲームの面白がり方など、流れを作っていましたよね。最後のローション階段大喜利の「松本人志、今、何している?」などは、粗品さんがその場で思いついたお題だったそうで、やはり制作側としてはヒヤヒヤものでしたか?

僕としては、粗品さんがヒール役になって盛り上げたり、ツッコミによって1個の笑いのパッケージにしたり、「OKラインの笑い」を瞬時に作り上げるスキルがすごく優れている方だと思っているので、そういったところでの不安は実はあんまりなかったんです。

――オープニングでの際どい発言から、「FNS逃走中」でのまさかの行動、「ハモネプ」での専門知識をふんだんに披露した審査コメント、そして全体の仕切りまでこなした粗品さんに、放送後には称賛する声が相次ぎました。

この『27時間テレビ』で粗品さんの魅力が世の中により一層届いてくれるという気がしていたので、そこがしっかり伝わって良かったなと思います。ヒールになる時はヒールになるんですが、絶対に一般の方を嫌な思いにさせないんです。『カギ』のロケでも、高校生を“刺す”ようなことは絶対に言わないので、27時間でいろんな要素がある中で、彼の中の使い分けがうまく表現されたのかなと思います。

――アバンVTRの裏では粗品さんも泣いていたと聞いて驚いたのですが、一緒に仕事されている立場としてはいかがですか?

粗品さんって、めちゃくちゃ熱いんですよ。グッとくる瞬間もあってカッコいいし、熱いので、感極まって涙されたと聞いても、驚きよりは「うれしいな」という感じでした。