――昨年10月クールに放送されたドラマ『エルピス』では、エンディング映像に「企画」として参加されていました。これはどういう経緯で担当されることになったのですか?
佐伯ポインティっていう猥談をやってるYouTuberの若いお兄ちゃんが、佐野(亜裕美、『エルピス』プロデューサー)さんとつないでくれて、一緒に飲むようになってたんですけど、彼女から「エンディングやってくれませんか?」と声をかけていただいたんです。
最初に未完成の台本を見せてもらったら、実在の事件を題材にするというセンシティブの上を行くみたいな本当に難しいものだったので、なぜこの作品をやるべきなのかという話を、佐野さんとは相当しましたね。そしたら彼女が、いろんな葛藤を抱えて、自分のエゴや制作者としての思いを自覚した上で、「それでもやりたい」と言ったので、結構リスキーな船に乗る感じはあったんですけど、「じゃあ僕も協力します」と。
――エンディング映像は、アナウンサー役の長澤まさみさんが楽しそうに料理番組でケーキを作っていたのに、オーブンを開けたら丸焦げになっていて…という流れでした。
実は、エンディングの制作チームは本編と完全に切り離されてるんですよ。だから僕らはあのドラマに対して批評性を持ったものを作れたんです。そこで何を表現したかというと、『エルピス』というドラマはテレビの暗部に切り込んだという見え方じゃないですか。だから他では企画が通らなかったということもあるけど、実際にどこまで切り込んでいるのか。テレビはもっとグロテスクなものを抱えていませんか、と。そもそも、テレビは見世物小屋で、誰かの不幸を起点としてそこに関わる人間がお金を稼いでいくという構造になっているけど、ドラマ本編ではそこまで描くことが難しい。なおかつ、実際のいろんな事件を参照した上でドラマを組み立てているということは、もう一度その不幸を起点として金稼ぎや自己表現をしようとしているんだと。
もちろん、この世に起こりうる不正や、権力者による汚い振る舞いを刺すということはものすごく大事なことだし、メディアがずっとやっていかなきゃいけない役割だけど、そのグロテスクなものを含んでいるということを刺さずに「素晴らしい自己批判的な作品ですね」と評価されるだけでは足りないと思ったので。もちろん、佐野さんをはじめドラマの制作陣は理解していて、それをドラマの中の出演者と設定にはめ込んだのが、あのエンディングです。maxillaという浅草橋の映像制作チームがいるのですが、そこの松野(貴仁)さんというディレクターたちとディテールを詰めていったという感じ。実働はむしろ僕よりmaxillaチームです。
――具体的に、あの設定はどのような意味を含んでいたのですか?
その辺りのことは、もう少し時間が経ったらお話ししようかと…。
――承知しました。それにしても、連ドラで本編に対して批評的な構造になっているエンディング映像というのは、聞いたことがありません。
ありえないですよね(笑)。でもそれが実現できたのは、佐野さんの胆力でもあるし、覚悟でもある。だって、大根(仁監督)さんや渡辺あやさん(脚本)は、エンディングを見たときに「えっ!?」と思ったそうですから。何で僕がそんなことをやるかというと、やっぱり作品のためなんですよ。制作者の満足度と作品の深さにはたぶん違うものがあって、だから全くドラマの制作チームに向いて作ってない。でも、佐野さんはそれを求めて、自分が刺されようとしたんです。そこが彼女のすごいところであり、イカれたところなんですけど(笑)
僕が撮るドキュメンタリーって、「被写体のいいところだけを出します」なんてことは全くなくて、絶対にかっこ悪いところも出てくる。それがあるから、立体的な描かれ方になるわけなんですけど、それでも僕を信じてくれたんで、あそこまでやれたんですよ。「お金足りません!」ってなっても、「どうにかします!」みたいなこともあって、僕にとってもめちゃくちゃいい経験でした。
――この『エルピス』のエンディングに、先ほどの『空気階段の料理天国』、さらに『ハイパー』も“料理”がキーワードになっていますが、そこは意識している部分があるのですか?
実は全く意識してなくて、たまたまそうなっちゃうんですよ。
――「生きる」ということに直結するものですし、何か導かれるものがあるのかもしれないですね。
そうですね。僕の中ではいくつか逃れられないテーマがあって、それが「飯」と「犯罪」と「地下」なんです。これはなぜか出てきちゃうんですよ。たぶん生い立ちなんでしょうね。でも、3つもあればいかなって。
――それがクリエイターとしての色にもなっていると思います。
■『ハイパー』今後の展開は…
――テレ東を退社されましたが、『ハイパーハードボイルドグルメリポート』の新作はどうですか?
映像はテレ東次第なのでちょっと分からないですね。なんで辞めたのかを言うたびに、ウソはつきたくないので、テレビ東京はどうなんだっていうことを少なからず言ってしまいますから、やりたいとは思わないんじゃないでしょうか(笑)。でも、ポッドキャストは続くと思います。
――音声コンテンツや書籍、コミカライズなど、形を変えて続けていくという感じでしょうか。
そうですね。でも、コスパが悪くて大変なんですよ(笑)。普通のポッドキャストみたいにただしゃべるコンテンツじゃなくて、調べて会いに行ってロケして編集してるんで、テレビと同じようなことやってるんです。僕1人でやってればいいんですけど、チームでやってるんで、みんながちゃんと飯を食えるようにしないといけないというのは、ずっと気にしてますね。だからコンテンツとして向いてるか分からないですけど、映画とかもっとでかいバジェットでできればいいなと思います。
作り手が貧しい思いをするわけにはいかないというのもあって、海外に出たいという気持ちもあるんです。日本は制作に対してのお金がどう考えても搾取を前提に価格設定されているので。