注目を集めるテレビ番組のディレクター、プロデューサー、放送作家、脚本家たちを、プロフェッショナルとしての尊敬の念を込めて“テレビ屋”と呼び、作り手の素顔を通して、番組の面白さを探っていく連載インタビュー「テレビ屋の声」。今回の“テレビ屋”は、テレビ朝日で『BORDER』『dele』といったドラマを手がけ、東宝に移籍して現在公開中の映画『百花』のプロデューサーを務める山田兼司氏だ。
『BORDER』で奇跡を体験し、『dele』では今までにない作り方で成功させると、さらなる新たな挑戦に臨むため、映画というステージにやってきた同氏が確信するのは“物語の力”。サン・セバスティアン国際映画祭のコンペに選ばれた『百花』においても、それを実感しているという――。
■映画でプロデューサーデビュー
――当連載に前回登場したABEMA編成局長兼制作局長の谷口達彦一さんが、山田さんについて「『dele』で存在を知りました。パソコンやスマホに残された不都合なデジタル記録を依頼により抹消する仕事屋を通して『デジタル遺品』に光を当てた作品で、当時こういう先進的なテーマを物語に取り入れて素晴らしいなと思っていました。クリエイティブ談義や釣りなど、公私共にお世話になっています」とおっしゃっていました。元々の出会いはどこだったのですか?
知人を介して、「谷口さんが会いたいって言ってるよ」と言われて、食事会でお会いしたのが最初ですね。テレ朝を辞めてすぐの頃だったんですけど、「注目してました。一緒に何かやりたかったんです」と言っていただいて。それからちょこちょこご飯を食べるようになって、あるとき集まったメンバーが釣り好きで、僕はやったことがなかったんですけど、海釣りに連れて行ってもらったら面白くて、そこから恒例行事になりまして。そんな流れなんで、実はお仕事は1回もご一緒してないんです(笑)
――完全なプライベート仲間なんですね(笑)。現在は東宝に在籍されていますが、新卒でテレ朝に入社されたんですよね。
最初はドキュメンタリー、報道志望で入りました。報道の力で社会を変えたいなんて青臭いことを思って(笑)、3年間、朝の報道情報番組にいて、ADを1年、ディレクターを2年やったのですが、報道よりもフィクションの力に可能性を感じるようになったんです。
――なぜ、そこでフィクションの力に目覚めたのでしょうか?
あの当時配属された番組が、朝なのにめちゃくちゃ報道色が強くて、調査報道とかを手がけているチーフプロデューサーやスタッフがたくさんいたので、硬派だったんですよ。そこで、拉致被害者の方の取材や事件取材もいろいろ行かせてもらいました。そんな中で、僕は村上龍さんが『半島を出よ』という、それこそ北朝鮮をテーマにした小説を出したときに、鳥越俊太郎さんとの対談をドラマ仕立てで企画して作らせてもらったり、入社3年目のときにはナベツネさん(渡辺恒雄・読売新聞グループ本社主筆)と鳥越さんの対談を物語仕立てで企画して作ったりして、そのときにフィクションの面白さに気づいたというのがありますね。
その後、異動希望を出し、縁もあって映画センターというところに配属させてもらって、プロデューサーデビューさせていただきました。
――どんな作品を手がけられたのですか?
当時のテレビ朝日は映画幹事作を増やそうという方針があって、『BALLAD 名もなき恋のうた』という『クレヨンしんちゃん』の実写化をやったりしている中、成り立ちに近いところからしっかりプロデューサーとしてやり切った作品としては、小栗旬くん主演の『岳-ガク-』という作品です。また、『相棒 劇場版II』というドラマ派生の作品も担当したりしていました。
――そこからドラマに移るわけですね。テレ朝は刑事ドラマが強い印象です。
本当にいろんな作品をプロデュースさせていただいたんですけど、刑事ドラマではそれこそ『相棒』や『警視庁捜査一課9係』とかも担当させてもらいました。自分が立ち上がりからしっかりプロデュースさせていただいたのは『BORDER』(14年4月期、※)という作品です。ある種の結果が出せたという意味でも、自分の中で大きいですね。
(※)…“死者と対話できる”という特殊能力を持った刑事・石川安吾(小栗旬)が、被害者の無念を晴らすべく、正義と法など様々な境界で命と向き合うヒューマンサスペンス。