――『スマスマ』最終回の歌収録は「世界に一つだけの花」でした。

これはメンバーもスタッフみんなも「この曲だろう」という感じで決まりましたね。これもセットデザインは賢太さんですけど、新しい道へ花で送り出したいという気持ちで、画面じゃ伝わらないんですけど生の花を何千本も使ってステージを作りました。

リテイクは絶対ないだろうし、最後に緞帳(どんちょう)を下ろしたほうがいいのかどうなのかとかみんなで悩んで…。いろんな人の思いがあるので重かったというのと、つらかったという思いがありましたね。これで番組が終わるのかという思いと、5人そろった姿を見るのが最後なのかという気持ちがあって。だから、僕はあれ以来、1回も見ていないんです。

――見返してないんですか?

はい、もちろん編集では何回も見たんですけどね。「世界に一つだけの花」の前に、オルゴールに乗せて6人のときの『Myojo』の表紙とか、5人旅とか、写真をオーバーラップするVTRを作ったんですけど、あの写真も何日もかけてギリギリまで選びました。

――「世界に一つだけの花」のクライマックスで、中居(正広)さんが右手で5本の指を折ってから「バイバイ」と振られたのを、見事にアップで押さえていましたよね。

まさかあの動きをされるとは思ってなかったんですけど、いつも、最後に手をギュッとするのがいいなと思っていたので、そのアップを撮ったんです。だからあれを見て、また何とも言えない気持ちになりましたね。

やっぱり歌は見てくださっているファンの皆さんへのメッセージになるので、『スマスマ』の最後の1年は、中島みゆきさんの「糸」とか、ユーミン(松任谷由実)さんの「守ってあげたい」などいろいろな楽曲をゲストの方々と歌ってもらったのですが、特別な時間を一緒に過ごした5人の絆を伝えたいという思いでした。

――『スマスマ』での16年間というのは、制作者としての経験値も大きいですよね。

そうですね。22歳から39歳までやったので、僕の原点になりました。『スマスマ』以外でも、中居さんの『さんま・中居の今夜も眠れない』、木村(拓哉)さんの『さんタク』、草なぎ(剛)さんの『がんばった大賞』『女子アナスペシャル』って、チーフAD時代からディレクターになってもSMAPさん以外の仕事を基本的にしてないんですよ。1つの番組だけをこんなに長くやれるということ自体が奇跡だと思うので、SMAPのメンバーと『スマスマ』のスタッフに育ててもらって、今があると思っていますね。

■「ここでしか見られないショー」をいかに作るか

――2016年末に『スマスマ』が終了し、その後はどのような番組を担当していくのですか?

音楽班のプロデューサーだった板谷さんに「『MUSIC FAIR』と『Love music』と『FNS歌謡祭』全部やろう!」って言われて(笑)、2016年末の『FNS歌謡祭』から他のディレクターと一緒に演出をやったり、2017年に入って『MUSIC FAIR』が今唯一のレギュラー番組になるんですけど、いわゆる“音楽班”に入りました。この歳になって、石田(弘エグゼクティブプロデューサー)さんと出会い、「お前、照明分かってねぇなぁ!」って怒られたりして(笑)、セットにLEDも使わないので、勉強しながらやってるという感じですね。

――LEDを使わないなど、ある種の制約もありながら、『MUSIC FAIR』の世界観の中でやっていくのはどんな感覚でしたか?

僕は映像とかプロジェクションマッピングとか新しいものを使うのが好きだったので、正直言うと、最初はちょっと戸惑いがあったんですよ。ところが入ってみると、奥深いんですよね。セットはパーツを組み替えていくんですけど、照明でどう見せるというのがいかに大事かというのを学びました。

それと、これは石田さんの言葉で正しいなと思うんですけど、「ここでしか見られないショー」を作るんだということ。最近の音楽番組は、基本的にはアーティストの持ち込んだ曲で、歌の画を撮るというのが大事な仕事なんですけど、『MUSIC FAIR』では1曲は必ずコラボレーションやカバー曲を歌ってもらうんです。新曲でもアレンジして生演奏でやったり。いろんなメディアがある中で、ここでしか見られないものをいかに作るかということなんですけど、もちろん毎回思い通りのキャスティングができるわけではないので、苦労しながらやっています。

――コラボレーションとなると、アーティストさんがリハーサルを合わせないといけないなど、準備が大変ですよね。リハは別日を取ってやっているのですか?

そうです。音楽番組全般に言えることですが、すごく費用対効果の悪い番組ですよね(笑)。月曜日に美術さん技術さんと打ち合わせして、水曜日に台本を出して、木曜日にゲストに来てもらってリハーサルをやって、それを見た後に美術・技術打ち合わせがあって、金・土・日でカット割りを作って、月曜に撮るというのを、4放送回に1回の担当制なので、だいたい月1回やってます。

  • 『MUSIC FAIR』(フジテレビ系、毎週土曜18:00~) (C)フジテレビ

――カット割りにおいてのこだわりはありますか?

その時々であるんですけど、好みで言うと最近は横顔が好きですね。あと曲にもよるんですけど、『スマスマ』の頃はギターが鳴ったら手元を撮るといったことをやっていたのが、最近はもっと気持ちに訴える映像は何だろうというのを考えて、じっくりじっくり寄っていくというのをやったりしますね。テレビは明るいほうが良いと言われる中で、わりと硬派な画撮りになっていると思います。

歌の映像って特殊で、正解もないし、本来は映像がなくても成立するソフトじゃないですか。だから、おこがましいんですけど、映像にするときに意味がないといけないと思うので、コラボレーションで新しく見せるとか、明かり一発で世界観を作るとか、そこを突き詰めてる感じですね。