――テレビ番組以外でも、カジサック(キングコング・梶原雄太)さんのYouTubeチャンネルを担当されてますよね。これはどういう経緯でやることになったのですか?
『ビリギャル(学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話)』という本が出版された直後に、著者の坪田(信貴)先生に日テレの特番で取材させていただいて、それで意気投合して仲良くなったんですけど、坪田先生が吉本興業の社外取締役になったんです。その直後に、坪田先生から「カジサックやってくれませんか?」って話が来たんですよ。僕はキングコングさんともYouTubeとも全く接点がなかったんですけど、二つ返事で「やります」と答えたんですね。
最初は梶原さんを含めスタッフ4~5人しかいなかったんですよ。そんな中、チャンネル登録100万人いかなければ芸人引退すると宣言をして毎日投稿していたので、毎日30分番組を出してるような感じでしたね。芸人さんが大々的にYouTubeをやるっていう第一人者ですけど、すごかったのは、梶原さんは最初にYouTuberとイベントで一緒になったときに、「誰だろう?この人たち」と思っていたそうなんです。でもステージに上がったら、YouTuberのほうが歓声が大きくて、「なんだこの現象は!」と思った梶原さんは、そこから1年間みっちりYouTubeの研究をされるんです。
100万人登録の宣言をして、たまに「行かなかったらどうしましょう」っていう話もしたんですが、毎日の配信は止めない。それは梶原さんが綿密に計算して、いつにこのネタを出そうかと配信スケジュールを決めてるんです。カジサックに関しては、総合演出は梶原さんですね。もちろんドッキリを仕掛けたりするときは別ですけど、基本的に企画案からサムネイルの細かいところに至るまで、全部梶原さんが決めてます。
――テレビの世界からYouTubeに飛び込んで、最初はどんな印象でしたか?
僕も突然呼ばれて来たんで、ある程度YouTubeを見て「こんな感じの編集かな」と思ってたんですけど、すぐに違うなと思いました。何が違うかと言うと、やっぱり梶原さんのしゃべりがうまいんで、他のYouTuberと違ってそんなにぶつぶつカットを入れる必要がないんですよ。それに「面白いものを適した尺で観せられる」という強みがYouTubeにはあると思いました。その凝縮された尺で、ほのぼのとした誰も傷つけない企画でブランディングを確立していったんです。最初はbadマークがすごかったんですけどね。
テレビと大きく違うのは、ゴールデンの番組になるとスタッフが100人とか、特番になれば200人という人たちが動くわけじゃないですか。でも、YouTubeだと本当に少数精鋭で、今、編集スタッフは十数人いるんですけど、彼らが編集したものを僕がチェックして、OKしたものを梶原さんに見せて、そこから梶原さんのチェックが入ってという繰り返しを、この3年やってますね。
最初はテレビのディレクターを使って編集をやってたんですけど、だんだんスケジュールが合わなくなってきて、坪田先生に相談したら、「カジサックの動画で募集すればいいじゃないですか」と言われたんです。それで実際に配信で告知してみたら、何百人も応募があって、僕がその人たちの編集した動画を全部チェックしていいなと思った人たちが、今やってくれてるんです。だからプロは3人くらいで、あとは他に職を持ってらっしゃる一般の方。面白いのが、その方たちが日本中で作業してくれているんですよ。
――リモートでやり取りできるわけですね。
フランスにもいますし(笑)。ネットで素材を送って、編集したものが来てチェックしてまた返してというやり取りをするんですけど、素人だった人がどんどん腕を上げていくんです。最初はA4で5ページくらいぎっしり修正事項を書いて直しをお願いしてたんですけど、それがだんだん減ってきて1~2枚になってきて。その成長ぶりすごいんですよという話をある局のプロデューサーに話したら、「なんでテレビの現場でそうやって育てることができないんですか」って怒られて(笑)
たしかに、テレビのディレクターには「お前、これはそうじゃないだろ!」ってついつい厳しくなっちゃうのに、『カジサック』のスタッフには「ここをこうやったほうがもっと効果的ですよ」って丁寧に教えてたんですよね。テレビのディレクターはプロなので、厳しくなっちゃう部分があるんですけど、素人の人に「お前なんだこの編集!」って言えないですし(笑)
――YouTubeを3年経験されて、逆にテレビの制作で生きている部分はありますか?
ありますね。『カジサック』は特別で、テレビとYouTubeの間を攻めている感じなんですよ。いわゆる“ジェットカット”と呼ばれるぶつぶつ切った編集はしないですが、今までやってこなかったスピード感やテロップの入れ方で編集するようになりました。YouTubeは基本ナレーションがないので、今まで説明し過ぎだった部分は「ここはナレーションなくてもいいのかな」となったりしますし、そういうちょっとした細かい部分は逆輸入できてますね。
梶原さんとも話すんですけど、カジサック以降、芸人さんがどんどんYouTubeをやられるようになったので、その芸人さんを見て興味を持った人たちがテレビに戻ってきてくれればより良いなと思うんですよね。また、テレビでできないことがYouTubeではできたりもするので。
――互いに補完しあって、いい共存関係ができるという感じですね。今、テレビとYouTubeで、仕事の割合はどれくらいですか?
テレビ7、YouTube3くらいですね。まだ公開になってないのも含めてYouTubeの発注が今4~5チャンネルくらいきているので、非常に増えました。
■『特命リサーチ200X』と『ダレトク!?』に通じるもの
――今後こういう番組を作っていきたいというものはありますか?
やっぱり実験して、世の中にまだ知られていないことを明かしていくような検証ものが好きなんですよね。『ダレトク!?』もそうだったんですけど、そういうのをやってみたいです。
――視聴率の指標が「世帯」から「個人」に代わってコア層(13~49歳など)が重視されるようになって、また『ダレトク!?』や『ひろいき村』のような番組ができるといいなと思ってしまいます。
できればやりたいですね。男性の若い層の視聴率とか、今見たら評価が違うかもしれないですしね。
――ご自身が影響を受けた番組を挙げるとすると、何ですか?
『特命リサーチ200X』(日本テレビ)ですね。僕がついた師匠とか昔のディレクターさんって、オフライン編集をやらない人たちばっかりだったんですよ。まだパソコンがなくて、VHSでやるのが面倒くさかったのもあるんでしょうけど、そうすると仮のナレーションも書かないんです。「ここは10秒空けとこうか」って感じなので、当然テロップとかを入れると、ナレーションとのタイミングが少しずれちゃって、僕はすごく違和感があったんですけど、『特命リサーチ200X』は、ナレーションとテロップの出るタイミングがもう完璧だったんです。これは何でだろうと思ったら、今では当たり前のことなんですけど、仮の編集でしっかりナレーションを書くんだと。そうやって丁寧に仕事をしようと思えた番組でしたね。当然内容も「へぇ」と思うことが多かったし、シチュエーションを作ったり、編集もカッコよかったですし。やっぱりああいう検証ものの番組が好きなんですよね。
――まさか『特命リサーチ200X』と『ダレトク!?』の底流に通じる要素が(笑)
だいぶ脱線しちゃったかもしれないですけど(笑)
――いろいろお話を聞かせていただき、ありがとうございました。最後に、気になっている“テレビ屋”をお伺いしたいのですが…
『SASUKE』(TBS)の総合演出をされている乾雅人さんです。僕は“テレビ屋の鑑”だと思うんですけど、『SASUKE』って出場された方が全員OAされるわけじゃなくて、ダイジェストになっちゃう人も出てくるじゃないですか。だから乾さんは出場者全員のVTRを作ってプレゼントしてあげるというのをやっていたんですよ。一般の方であっても、演者に対するリスペクトが素晴らしいんです。それに、世界に通じるコンテンツになって、各国に飛んでアドバイスされているんですよね。
あと、乾さんの番組ってエンドロールが全部ゆっくりなんです。それは、関わってくれたスタッフさんを大事にしたいということなんですよね。エンドロールが始まると視聴率が下がるという考え方もあるので、バーっと速く流したりする場合もあるんですけど、乾さんは最後まで見てもらえるように作ればいいと考えてらっしゃって。そこにもお人柄が出てるなと思います。