――現在レギュラー番組では『東大王』をご担当されていますが、お笑いとはずいぶん毛色の違う番組です。

そうなんですよね(笑)。でも、問題作りについてはクイズ作家さんたちがいて、僕らは見せ方とか、どのようにしたらストーリーを作っていけるかというところを考えるので、番組作りとしてそこまで違うことはないのかなと思います。

――どのようなことを意識して演出されているのですか?

東大王の子たちがスターになれるような演出は意識しています。というのも、『東大王』ってテレビに出ることを目標としていない人たちが主役の番組なんです。卒業前に鈴木光ちゃんと話していたとき、彼女は弁護士志望なので、「この先『行列のできる相談所』の弁護士席とかでオファー来たらどうするの?」と聞くと、「いや、出ることはないと思います。テレビには一生分出たと思いますので」ってサラッと言うんです。光ちゃんはテレビだけじゃなく、雑誌とかCMとかにも出演されるくらい人気があったので、僕とかは「もったいないな」と思っちゃうんですが、やっぱりそこは“クイズ番組に出てる東大生”なんだなと。けど、やっぱり『東大王』というタイトルでやっているので、彼らをスターにしたいという思いがあります。視聴者にとって憧れの的になるような見せ方とかクイズ形式とか、逆にYouTubeチャンネルの企画では身近に感じてもらえるようにしたほうがいいのかとか、いろいろ模索しながらやっていますね。

――1回のOAにつき、問題数はどれくらい準備しているのですか?

80~100問くらいですね。問題に幅をもたせたいのと、旬じゃない問題になっちゃうとどんどん捨てていかなくちゃいけない。「こんな感じの問題お願いします」という感じでクイズ作家さんに作問をお願いするんですけど、どんどん問題を作ってくれるので、すごいなと思います。

ある作家さんは夢の中でもクイズを考えていて、良いクイズができたら起きてすぐ書き留められるように、枕元にメモを置いてあるんですって(笑)。それくらい、クイズを考えるのが好きでストイックな方々に支えられています。クイズ界とは無縁の人生だったので、話をしていると面白いですね。

――シーズンごとに少しずつシステムを変化させていますが、この狙いは何でしょうか?

この春で言うと、光ちゃんとジャスコ林くんという2人が卒業してしまうというときに、どうしても戦力や人気、期待値が落ちてしまうので、Paraviで「プロジェクト東大王」というのを立ち上げて、オーディション自体を見せていくことで、新たなメンバーにも注目してもらえるような形に結び付けられたらな、と考えて行いました。伊沢(拓司)くんや水上(颯)くん、光ちゃんという最初に『東大王』を作り上げた人たちが抜けてしまう影響はやはり大きいので、いろいろ試行錯誤しながらやっている感じです。

――アイドルグループでも、初期メンバーが卒業した後にいかに継承していくかというのは、大きなテーマですからね。

そうなんですよ。「やっぱり最初が良かった」という心理ってあるじゃないですか。ほかにも、優勝すると東大王と対決できる「東大王クイズ甲子園」というのを立ち上げました。今年で2回目なんですけど、全国で1,000人以上の高校生に応募していただきまして、決勝まで勝ち上がってきた学校の偏差値がものすごく高いんですよ。敗退した高校の子が泣きながらエールを送っているのを見て、参加者の本気度を感じました。高校生日本一になって東大王と戦うためにみんな1つになってるんだなと思って、すごく意気に感じたんですよね。

先日収録を終えたのですが、勝ち上がった8校による決勝戦の問題は、テレビ番組では考えられないくらい難しいものを作ったのに、正解するんですよね。東大王のメンバーはもちろんなんですが、出場いただいた高校生には本当に驚かされました。

  • 9月1日放送「東大王クイズ甲子園」より (C)TBS

■クイズ番組で描くドキュメンタリー

――改めて、現役東大生の東大王の皆さんに驚かされる部分は、どんなところですか?

うっかり忘れがちなんですけど、ものすごく賢いですよね(笑)。楽屋ではキャッキャして普通の若い子だなと思うんですけど、収録が始まると本番中にメモを取ってるんですよ。「それ何?」って聞いたら、他の人が何の問題にどのタイミングで正解したのかとかを全部書いていて、それを家に帰ったときに見て、自分のプレイングを反省してるんですって。言ってみればただのテレビ番組じゃないですか。負けたところで死にやしないし、生活ができなくなるわけじゃないし、ましてやテレビのタレントになりたい人じゃないのに、こんなに真剣にクイズに向き合ってる姿を見ると、こっちも中途半端な問題は出せないし、そんな彼らのすごさをもっと視聴者の方に伝えないとなと思います。

テスト期間中とかだといつも楽屋で勉強してるんですよ。こんなところに来て勉強できるんだ、と思ったら、違う日はみんなでゲームやってたりとか(笑)

――切り替えと集中力がすごいんですね。

芸人さんとはまた違った感じのすごさを感じますね。すごすぎちゃって、それが伝わらないときがあるんですよ。東大王の問題は結構難しくしてるんですけど、サラッとできちゃうから、「もっと喜んでいいんだよ!」って言うんですけど、「まあ、おさえていたところが出たので分かりました」みたいな感じなので。オーディションとかでインタビューしていると、全国模試でトップ10とか平気で入ってるんですよ。そもそも東大模試で1ケタに入るなんてすごいことなのに、こっちも麻痺しちゃって「模試は全国何位ですか?」って当たり前に聞くようになっちゃっていて。だから、東大王の公式YouTubeチャンネルを立ち上げたんですけど、そこではもう少し彼らのパーソナルな部分が出せたらいいなと思って、今後いろいろやっていこうかなと考えています。

――クイズ番組でドキュメンタリーの部分を描くというのも、この番組の特色だと思います。

クイズ番組という50年以上ずっとあるフォーマットの中で、何が『東大王』なのかというと、ストーリー性やドキュメンタリー性が他にはないところだと思うんです。そこをうまく伝えて、もっと磨きをかけて、より多くの人に知ってもらえるように演出していけたらなと思います。

――ファンを集めて鈴木光さんとジャスコ林さんの卒業イベントが開催できるというのは、そうしたパーソナルな部分を描いてきたからですよね。

今は編成に行った福田(健太郎プロデューサー)に「イベントをやりたいんです」とお願いしたら、「お客さん入るのか?」と言われたんですけど、「入ります!」って言っちゃって(笑)。でもTBSにはバラエティ番組がこの規模のイベントをやるという事例がなかったので、そこから福田プロデューサーに社内中を駆けずり回って調整してもらって、結果としてチケットが即完で、当日も長蛇の列ができて。カメラで抜かれるだけでうれしくて客席で泣いちゃうお客さんもいたりして、やって良かったなあと思いましたね。

――若年層中心のお客さんで、今のゴールデンタイムのテレビ番組のイベントとしては珍しい客層なんじゃないかなと思いました。

そうですね。これをうまく継続していきたいですね。今回は光ちゃんとジャスコ林くんというスーパースターがいたというのもあると思うんですけど、毎年誰かは卒業してしまうので、これからは番組についてくれるファンというのを作っていかなければと思います。