注目を集めるテレビ番組のディレクター、プロデューサー、放送作家、脚本家たちを、プロフェッショナルとしての尊敬の念を込めて“テレビ屋”と呼び、作り手の素顔を通して、番組の面白さを探っていく連載インタビュー「テレビ屋の声」。今回の“テレビ屋”は、テレビ朝日系バラエティ番組『かまいガチ』(毎週木曜24:15~ ※一部地域除く)のチーフディレクター・プロデューサーの近藤正紀氏だ。

かまいたちの関東初冠番組である『かまいガチ』は、テレ朝平日深夜のバラエティゾーン「バラバラ大作戦」で昨年10月にレギュラー化。2人がガチで様々なものに挑む企画が好評で、「バラバラ大作戦」のテレ朝社内投票で1位を獲得し、半年後の今年4月に早くも24時台に進出した。その原動力である、かまいたちの魅力を引き出すためのこだわりとは――。


■ワイプからのツッコミに「魅了されてしまった」

『かまいガチ』チーフディレクター・プロデューサーの近藤正紀氏

近藤正紀
1986年生まれ、愛知県出身。慶應義塾大学卒業後、10年にテレビ朝日入社。『シルシルミシル』『オドロキ見たいテレビ びっくりぃむ』『夜の巷を徘徊する』『ソノサキ~知りたい見たいを大追跡!~』『バナナマンのドライブスリー』などを経て、現在は『かまいガチ』『ミュージックステーション』『ピン様×キリ様』『にゅーくりぃむ』を担当する。

――当連載に前回登場した放送作家の樅野太紀さんが、近藤さんについて「あいつ、金髪でミーハーなはずなのに『恥ずかしい』って取材めっちゃ断るんですよ。でも、面白いやつですし、『かまいガチ』も24時台に上がったので、ぜひ」とおっしゃっていました。

僕は最初の番組が『シルシルミシル』で、そこで作家をやってた樅野さんと出会いました。『シルシル』でADからディレクターになったんですけど、AD時代からめちゃくちゃしゃべりかけてくれる人でしたね (笑)。お笑いの発想が面白いのは僕が言うまでもないんですが、ADさんだろうがディレクターだろうが面白い意見が出れば「おもしろい」といって取り入れてくれる柔軟性もある人。「これはロケ現場で成立するだろうか?」みたいなディレクター目線もちゃんと持った人ですね。本当に“面白いものを作る”ことにまっすぐな人なんだと思います。その印象は出会ってから今まで変わらないです。

昔から知っているだけに、僕がちょっと間違った方向にいきそうになったら「それ違うんじゃない?」と叱ってくれる貴重な人でもあります。そんな樅野さんと今も一緒に『かまいガチ』という番組を作らせてもらえている。ありがたい話です。

――『かまいガチ』は、どのようにして立ち上がったのですか?

去年の4月に『ピン様×キリ様』という特番の一発目をやって、そのMCをかまいたちさんにやってもらったら、VTR番組なんですけど、スタジオトークがめちゃくちゃ面白くて。VTRを見る番組のMCって当たり前のことですが、どうしてもVTRがメインになるのでできることが限られると思うんですけど、VTR中も、その合間も、コメントがとにかく面白いんですよ。テクニック論の上手いとはまた違う、どういう目線でVTR観てるの?というか。

例えば、しんみりするVTRのくだりなのにワイプで全然関係ないところを本気でツッコんでたりするんですよ(笑)。そのツッコミって下手したら邪魔になってしまうのに、僕はすごい魅了されてしまった。ただ、当然テレビは決められた尺に収めないといけない。VTR番組である以上、どうしてもスタジオ部分は切るところが多くなってしまってもったいないなと思って、かまいたちさんでトークだけの番組ができたら面白いなと思って書いた企画書が『かまいガチ』でした。

――『ピン様×キリ様』でかまいたちさんを起用されるのに、きっかけなどはあったのですか?

最初は単純に面白いな、一緒にお仕事させていただきたいなと思う芸人さんの1組という感じでした。『ピン様×キリ様』は最初に別のプロデューサーの企画が通っていて、僕が演出で入り、会議でMCを決めるときに「じゃあかまいたちさんで」という流れでした。今はめちゃくちゃブレイクされてますけど、『ピン様×キリ様』がお2人の関東地上波初MCだったので、今思えばいよいよくるぞっていう感じのときでしたね。僕はたまたまいいタイミングで一緒に仕事ができました。

――『シルシルミシル』などでくりぃむしちゅーさんと藤井智久さんの関係性を見て、芸人×ディレクターのタッグの流れを作りたいという意識もあったのでしょうか?

もちろんです。かまいたちさんはちょっと上の世代なんですけど、とは言え近しい年代ではあるので、おそれ多いですけど「一緒に上がっていきたい」という思いはありますね。

■打ち合わせ中や移動中でもあふれるコンビ愛

――山内さんが『ワイドナショー』(フジテレビ)で「企画会議とかでホンマの叩きの叩きをLINEグループで投げて反応を確かめることもある」とおっしゃっていたのですが、『かまいガチ』での話でしょうか? 企画会議の段階からかまいたちさんも入っているのかなと思いまして。

おそらくLINEで頻繁にやりとりされてるのはYouTubeかなと思うんですが、『かまいガチ』もたまにLINEでやりとりしますね。ただ、かまいたちさんが単純に忙しいというのもあって、『かまいガチ』の企画会議はかなり短いと思いますよ(笑)

収録終わりとかに、番組スタッフが書いた箇条書きの企画タイトル5~6個を一緒に見ながら、その中で引っかかったやつをわいわいしゃべりながら広げていくという感じです。で、そこで全部は決めずに持ち帰ってスタッフで考えて本番に臨む流れですね。僕自身、現場で何が起こるか分からないっていうのが好きなんで、無意識にあんまり話しすぎないようにしてるんだと思います。

――あまり台本でギチギチに固めるのではなく、かまいたちさんが自由に動けるように余白を持たせる感じですか?

カッコよく言うとそんな感じです(笑)。バラエティを作る上でそれって結構あるあるだと思うんですけど、この番組に関しては強く意識してそうするようにしています。細かくは全く決めないです。カメラを回す前に「冒頭の企画説明はこういう感じで行きましょう」とか「途中の2軒目はこんな感じのお店です」とか、それくらいで。台本も一応書くんですが、たぶんちゃんと読んだことないんじゃないかと思います(笑)。もしかしたらこっそり読んでるのかもしれないですけど見たことないです(笑)。あれだけ大阪でロケ番組をやってきた人ですから勘がすごくいいので、「こういう趣旨です」と伝えると後は全部ちゃんとやってくれるんです。

――かまいたちさん発信で生まれた企画もあるのですか?

ありますね。26時台でやったそれぞれのバースデーを祝う「サプライズバースデー企画」は全てかまいたちの2人が考えてますし、「全部の罰ゲームの正解リアクションを見つけよう! 山内罰ゲーム指南書」とかは山内さんに内緒で濱家さんが考えてます(笑)

――その企画が象徴するように、かまいたちさんのコンビ愛、仲の良さというのはやっぱりすごく感じますか?

あの2人は本当に仲良いですね。打ち合わせ中も、ロケバスでの移動中なんかも、話しながら2人で笑ってるときがたくさんありますね(笑)

――“部室”みたいな感じですね(笑)

そうですね。ディレクターも男ばっかなんで、男子校みたいな感じです。そのノリでやってみて失敗する企画もめちゃくちゃ多いんですけど(笑)

――失敗ですか?(笑)

でも、かまいたちさんが救ってくれるので、それも結局面白くなるんです。失敗というか、「想定から大きく逸れる」って言った方が正しいですね。こうなっていくだろうな…と思ってたのが全然違う方向に行くのは、何回もあります。『かまいガチ』のバースデー企画で、GAGの福井(俊太郎)さんを鬼のようにスベらせてしまったんですけど(笑)、それが想像していたよりも大きな笑いになったので、バラエティ的には大成功になりました。そういう意味では、失敗と言っても「これはヤバいな」となった企画はないですね。そこがかまいたちさんの強さだと思います。

これに関して言えば、一緒に番組をやらせていただいているくりぃむしちゅーさんは本当にすごい。想像の8倍ぐらい横に逸れていくときがあるけど、ちゃんと面白く成立させてくれます(笑)

  • かまいたちの山内健司(左)と濱家隆一 (C)テレビ朝日
    5月20日は、日向坂46の加藤史帆&渡邉美穂、ザブングル加藤らが登場し、「ガチ名言!お悩み相談室」を放送する。

■やりたくないだろう企画でYouTubeとも差別化

――やはり『かまいガチ』を、超売れっ子のかまいたちさんにとってのホームのような存在にしたい気持ちがあると思うのですが、他の番組との差別化でどのようなことを意識されているのですか?

そう思ってくれるとうれしいですね。まずは2人らしいことをやることだと思うんですが、2人がやりたいことだけをやるのとはまた違うと思うんです。そこのバランスですね。

――「追い込む」という感じですか?

それもありますし、2人に隠してやることもありますし、あえて2人がやりたくないだろうなということもやります。いろんな表情が見られる番組にしたいなと思います。あと他の番組との差別化はもちろん、かまいたちさんのYouTubeとも違うことをやりたいというのがありますね。

――それは信頼関係があるからこそできることですよね。

信頼してくれてるのかな…(笑)。でも、ある程度緊張感を持ってやっていきたいと思いますよ。カメラが回ったときは、スタッフとかまいたちさんで、どこか勝負してる感じはありますね。