注目を集めるテレビ番組のディレクター、プロデューサー、放送作家、脚本家たちを、プロフェッショナルとしての尊敬の念を込めて“テレビ屋”と呼び、作り手の素顔を通して、番組の面白さを探っていく連載インタビュー「テレビ屋の声」。今回の“テレビ屋”は、日本テレビ系情報番組『ZIP!』に加え、バラエティ番組『ザ!鉄腕!DASH!!』『幸せ!ボンビーガール』などの統轄プロデューサーを務める島田総一郎氏だ。

月~金の情報番組とゴールデン・プライム帯のバラエティ番組のプロデューサーを兼務するという他局を含めても異例の担当。いずれのジャンルも同じ「情報・制作局」が管轄する日テレならではの人事だが、これによってどのような効果があったのか――。


■城島茂24時間マラソンに役立ったのは…

日本テレビの島田総一郎統轄プロデューサー

島田総一郎
1975年生まれ、埼玉県出身。早稲田大学第一文学部卒業後、99年に日本テレビ放送網入社。番組制作部門に配属され、『雷波少年』『ラジかる!!』『あの人は今!?』『日本史サスペンス劇場』などのディレクターを担当し、現在は『ZIP!』『ザ!鉄腕!DASH!!』『幸せ!ボンビーガール』『50日間で女性の顔は変わるのか?』の統轄プロデューサー。

――当連載に前回登場した日本テレビの清水星人さんが、島田さんのことを「格闘家としてもいいところまで行った人」とおっしゃっていたのですが…。

あの人、サービス精神豊富なんで、僕の紹介を盛り過ぎなんですよ。全然いいところなんて行ってないですから(笑)。30代の時に趣味でキックボクシングのプロの試合にちょこちょこ出てただけで。友人たちに沢山チケット買わせて、その売上を稼いで試合に出てたっていう、悪徳兼業ファイターなんですよ。

――日テレに入社してからプロの試合に出てたんですか!

そうですね。もともとキックボクシングはプロ格闘家の友達とプライベートの遊びでやってたんですけど、30代くらいになると彼らはみんな自分のジムを持ち出すんですよ。僕の友達の大沢ケンジっていう総合格闘家が独立してジムを持って、そこに遊びに行って練習しているうちに、アマチュアの試合に出たりしていると、お声がかかってプロの試合に出てみた、という感じです。遊びの延長ですから、大人がゴルフにハマっていくことと同じなんですよ。

――その経験が番組制作に生きていることは、ありますか?

ん~、そこはあんまりないですね(笑)。ただ、『24時間テレビ』(14年)でリーダー(TOKIO・城島茂)が101kmマラソンを走ったときに、最初に「俺も一緒に走るから、リーダー走ろうよ」って説得するところからやったんですけど、減量で普段からめちゃくちゃ走っていたので、本番でも走るのが楽で、あのときだけは役立ちましたね(笑)。リーダーを励ましながら頭もディレクター・プロデューサーのまま長い距離走れたのは、体力があって良かったなと思います。

――『ザ!鉄腕!DASH!!』のロケも、結構体力を使うのでは?

そうですね。山に登ったりすることも多いんですけど、TOKIOの皆さんと同じように動けていたので、30代の時に運動してるのは良かったかもしれないですね。でも、今は全然動かないですよ。DASH島行っても浜辺で一人、座って読書してますから。この前も「アンタそれ最高の休日じゃないですか」ってスタッフに嫌味言われました(笑)

■『ZIP!』の文脈のまま『鉄腕DASH』へ

――清水さんは、「毎日4時に起きて『ZIP!』の生放送に入り、それが終わると『鉄腕DASH』に来て…。働く1人の男として尊敬しています」ともおっしゃっていました。

『ZIP!』のある日は5時前くらいに会社に着いて、アナウンサーや出演者さんと打ち合わせをして、5時50分からの生放送に入ります。それが8時に終わって、プロデューサーの長田(宙)くんとかと『スッキリ』を見ながら朝ごはんを食べて、9時くらいから『ZIP!』の会議をやったら、11時からは『ザ!鉄腕!DASH!!』と『幸せ!ボンビーガール』の人間に変わります。

――そこで切り替えるという感じですか?

最初は、情報番組とバラエティで違うから切り替えなきゃと意識してたんですけど、次第にその必要はないなと思ってきました。考えてみると、他のバラエティをやってるときは『DASH』の会議の後に別の番組の会議で「『DASH』だとこういうのがあったから、これもこういうふうにできないかな?」って、前の会議での文脈を生かすような考え方でやっていたんですよ。だから『ZIP!』からも切り替えないで、そのままの文脈で『DASH』に入っていくほうが、むしろ新しいものが作れるなと思って。

『ザ!鉄腕!DASH!!』って、季節や時事ネタを扱う番組なので、もうドキュメンタリーなんですよ。だから、『ZIP!』に入って、「世の中の人は今をこう捉えているのではないか」ということをめちゃくちゃ考えてるスタッフたちと一緒に仕事をしたものの見方のままバラエティに行くと、コロナの話題1つでも「捉え方、伝え方が下手だなあ」と感じるようになりました。「さっき『ZIP!』でこうやったから、こう伝えたほうがいいよ」と言えるようになって、『DASH』がめちゃくちゃ得してるなと思います。

――加藤浩次さんが『スッキリ』を始めてから、『めちゃイケ』総監督の片岡飛鳥さんが加藤さんの視点に学ぶことが多くなったと言っていたというのを聞いたことがあります。それを思い出しました。

僕もずっとバラエティをやってきたんですけど、『ZIP!』に入って思ったのは、バラエティって世相とか誰もが知っている事象を、テレビの前の人がどう感じているかということを考える努力みたいなものが、圧倒的に足りてなかったという反省がありますね。それは『ボンビーガール』も含めて。

  • 『ZIP!』総合司会の桝太一アナ(左)と徳島えりかアナ (C)NTV

■4分弱のニュースが『DASH』の新企画に

――『ZIP!』を担当することになったのは、いつからですか?

去年の6月1日付で統轄プロデューサーという形で入ったんですけど、以前も山口達也さんがやってたり、(総合司会の)桝(太一)くんも『鉄腕DASH』によく出てくれているのもあって親しいスタッフも多かったので、そんなに遠い存在じゃなかったんですよね。それに、視聴者として毎朝見ていたので、すごく近くに感じる番組でした。

――それでも、バラエティをやりつつ、情報番組の『ZIP!』も担当するという話を聞いたときは、どんな気持ちでしたか?

今までなかったことなので、すごく面白いなと思いました。生放送だと夕方で中山秀征さんがやってた『ラジかる!!』は経験したことがあったんですけど、『ズームイン!!朝!』から続く伝統ある枠の正統派の情報番組は、まるっきり初めてだったので。

――先ほどお話しいただいた『ZIP!』の文脈をバラエティに持ってきたという中で、具体的に企画になったものはあるのでしょうか?

3月にコロナで学校が休校になって、東京都足立区の給食専門の農家さんがすごく困っているというニュースを『ZIP!』でやったんです。給食がいつ再開するか分からないけど、小松菜はどんどん育っていくから、収穫しては泣く泣く廃棄しているという話題を4分弱でコンパクトに伝えるのを見て、「わー!これめちゃくちゃDASHの企画だ!」と思って。その生放送が終わって頭の中ですぐ企画を考えて、「DASHご当地PR課」というコーナーを「DASH緊急PR課」というタイトルにして、国分(太一)さんとKAT-TUNの中丸(雄一)くんが捨てられてしまう小松菜を使って、家庭で大量に食べられるものを作るという企画を4月に放送しました。

そしたら、翌日からJAの直売所が午前中で売り切れになるし、いろんなところから農家さんにタイアップ商品の提案が来て、番組で紹介した足立区の農家さんだけじゃなく、江戸川区でも捨てられていた小松菜が売れたりしたんです。『DASH』も新しい企画になったし、少なからず世の中のお役にも立てたし、これは完全に『ZIP!』をやっていたおかげですね。

――ものすごくきれいな形で、みんながWIN-WINになったんですね。

『ZIP!』だけが得してないですけどね(笑)。担当ディレクターの畠山(剛治)くんに「お前のおかげでいい企画ができたよ。ありがとう」って口頭でお礼を言っただけで(笑)