注目を集めるテレビ番組のディレクター、プロデューサー、放送作家、脚本家たちを、プロフェッショナルとしての尊敬の念を込めて“テレビ屋”と呼び、作り手の素顔を通して、番組の面白さを探っていく連載インタビュー「テレビ屋の声」。今回の“テレビ屋”は、テレビ朝日系『激レアさんを連れてきた。』『中居正広のニュースな会』『爆笑問題のシンパイ賞!!』の演出を務める舟橋政宏氏だ。
『激レアさん』をきっかけにブレイクした弘中綾香アナウンサーの能力や、それを引き出すオードリー・若林正恭の技術、そして、独特な“手作り小道具”をはじめとした演出のこだわりとは――。
■“激レアさん”に敬意を持って制作
――当連載に前回登場した、舟橋さんと大学の同じサークルの先輩だったというフジテレビの日置祐貴さんが、舟橋さんについて「ダメダメADだというウワサがあって、テレ朝内を坊主頭で徘徊してるというのを聞いたときは『何かやらかしたんだろうな…』と思ってたんですけど、今やテレ朝の人気番組をたくさんやってうらやましすぎる!」とおっしゃっていました。
いえいえそんな…。坊主にしたのは2回ありますが、1つは「セグロセキレイ」という鳥の名前を「セグロセキエイ」と間違えてテロップを出してしまったときだと思います(笑)。坊主にしてるわりに元気がなくて大人しいので、本当の僧侶みたいになってたと思います。日置さんまで届いてしまって本当に恥ずかしいです。
――「『激レアさんを連れてきた。』でナレーションにルシファー吉岡さんを使ったり、人選の目線が面白いなと感じてます」とも言ってました。
もともといた班が、バカリズムさんがナレーションをやっていた『シルシルミシル』をやっていて、僕はナイツの塙(宣之)さんがやっていた『怒り新党』のディレクターだったんですけど、それは(プロデューサーの)藤井智久さんが選んでいるのを見ていたんです。芸人さんって、普通に読んでいても、声にちょっと面白成分が混じってるみたいなところが好きでいいなと思って起用しました。芸人さんナレーションは普通のトーンでシレっとふざけたことを言うのが上手いのと、聴いた人がいい意味で引っ掛かるので、番組のカラーが出しやすいと思ってます。
――ルシファーさんのナレーションは「いいかー?」「○○だぞー!」というフレーズが特徴的ですよね。
前身の『アップデート大学』が“大学”の設定だったので、学校の先生ネタをやっているルシファーさんしかないと思って第一希望でお願いしました。あの言い回しも本人のネタのままです。でも、番組から“大学”の設定が取れて先生の要素がなくなっちゃって、あの言い回しだけ残ってるので、たまに「高圧的だ」って苦情も来たりします(笑)
――『アップデート大学』で“レア体験をした一般の方を研究室に連れ込んで貴重な研究材料に”という「レアケース体験学部」の企画が始まったのが『激レアさん』につながっていくわけですが、どういうきっかけで生まれた企画なのですか?
番組の内容をリニューアルするとなっていたときに、奥川(晃弘)部長に「“知識をアップデートする”という要素さえあればいいから、新しい企画をやってみろ」と言われたんです。僕は情報性情報性するのが嫌だったので逆手に取って、ものすごい体験をしすぎてる人の話を聞けば、もう情報を学びようがなくてただの笑いになるんじゃないかということで、この企画を通したという感じですね。
――番組はどのように制作していくんですか?
まずリサーチャーさんが普通のゴールデン番組なら3~4社くらいなんですけど、8社とか9社とか入ってます。そこで、「あまりテレビで扱われていない」「どういう体験をしたかを聞いただけで笑っちゃうようなすごい体験をしている」という2つの要素で、書籍やニュース番組、地方の三面記事、さらには新宿のゴールデン街で話を拾ってくるとか、いろんなタイプのリサーチャーの方がネタを持ってきて、1回の会議で100ネタくらい入ってきます。そこからさっき言った条件に照らし合わせると大体10ネタくらいになって、オファーをかけると3~4ネタになりますね。
――そんなに絞られてしまうんですね!
連絡がつかない方もいますが、本当に一般の方なので、必ずしもテレビに出るメリットがあるわけではないですから、出演にこぎつけるのはそれくらいになりますね。それから、2週間くらい取材して台本を書いて、激レアさん本人に確認して…というのを何回か繰り返して、でき上がった台本を収録3日くらいに前に弘中さんに渡します。それを覚えてきてもらって、スタジオで激レアさんとリハーサルして、本番に臨むというのをサイクルでやっています。
――“激レアさん”をイジってしまう形に見えるおそれもあるのでは…と思うのですが、信頼関係はどのように担保しているのですか?
台本を何回も更新してご本人に見せて進めているので了承済みであるということと、基本的に笑いにはしてますけど、すごいと思った常人離れした人しか取り上げていないので、敬意を持ってやってるんです。ヤバい人かな?破天荒な人かな?って思うんだけど、その要素が功を奏して最終的にすごいことを達成するという形になっているはずです。
■手作り小道具は便利な手法
――この番組は手書きのボードやフリップ、手作りの工作が特徴的ですが、作るのにどれくらいの時間がかかっているんですか?
ボードに関しては前日の夜に放送2回分を2時間かけて弘中さんが書いてます。フリップや工作もそのときにやりますが、最近は絵が凝ってきているので、そういうのはADさんが下書きの線を書いたものを渡して、それを参考にしながら作ってるんですけど、それだけで1時間くらいはかかりますね。
――“手作り”のこだわりはどういう経緯で生まれたんですか?
『アップデート大学』が深夜だったので予算的なところもあったんですけど、夜中にテレビをつけたら、アナウンサーが自作で作ったボロボロの工作でプレゼンをしてるのを見て、「これ、俺しか見てないんじゃないの?」って身近に思って気に入ってもらえたらいいなと思ったんです。あと、再現VTRでない代わりに、何でもできるんですよ。大自然の話でも、どんなスケールでもダンボールで作れちゃうので、今は結構便利な手法だと思ってます。
――手作り工作で説明するテレビ番組って、『激レアさん』か『サンデーモーニング』くらいですよね。
そうですね。でも、うちはショボいですから、『サンデーモーニング』さんのほうがちゃんとしてますけど(笑)