――芸人さんとしても、テレビでコントの枠が少ないから、若林さんも喜んでやっていたのだと思います。佐久間さんは現在、セクシー女優が登場する「キス我慢選手権」企画などで有名な『ゴッドタン』も担当されていますが、最近、テレビの規制が厳しくなっていると言われている中で、実際にそれを感じますか?
あります、あります。どんどん難しくなっているんだろうなと思います。
――具体的には、どんな部分で感じますか?
すごいざっくり言っちゃうと、過激なものはネットで見られるから、それをテレビに求めてなくなっているんだと思います。テレビを見ている人たちはファミリーが多かったり、高齢な方が多くなっていたりというのは厳然とした事実で、そういう人たちは昔ほど暴力的なものとか、乱暴なテレビの表現というのを受け入れないんだというのは分かりますね。
――そういう環境の中で、佐久間さんは、過激ではない面白さを求めていくという考え方ですか?
いえ。というよりも、視聴者と手を握れる番組を作っていきたいなと思っています。よく僕は"共犯関係"って言うんですけど、見ている人の「これ分かるから面白いよね」っていう認識と、われわれ作り手側の「これはこれだって分かりますよね?」っていう認識がお互いに続いていると、クレームは来ないんだと信じてやっているんです。その中で冒険をしたり、やり過ぎたと言われたりしながら作っていければいいと思っています。
――なるほど、"共犯関係"ですね。昔、笑福亭鶴瓶さんと上岡龍太郎さんが下半身丸出しの格好をした『鶴瓶上岡パペポTV』(読売テレビ)のポスターのキャッチコピー「見てるあんたも同罪じゃ。」を思い出しました。
僕は、テレビの良いところは、等しく無料だから、偶然の出会いがあることだと思うんです。これは、自分で探して見つけなきゃいけないメディアや、課金メディアにはないことですよね。そうして僕は、偶然映っていたテレビのおかげで、音楽が好きになったり、マンガが好きになっている。そういう良さがテレビには絶対的にあるので、その中でちょっとはみ出した表現をやっていきながら、僕の番組をきっかけに好きなものが増えたとか、売れたとかいう人たちが増えてほしいなと思ってやっています。
――今後、こういう番組を作っていきたいという野望はありますか?
僕はテレビのディレクターを引退する前に、もっと良い時間でお笑い番組をやってみたいですね。『ダウンタウンのごっつええ感じ』(フジテレビ)のような、芸人さんの冠番組みたいなものを、チャンスがあれば。
――それに向けて、風向きはいかがですか?
いやぁ分かんないですね。テレビを取り巻く環境って毎年毎年ゴロッと変わっていると思うんです。そして、今の人たちにとって、リアルタイムで見るというテレビはどんどん不便になっている。でも、『SICKS』では、そういうテレビに対するモチベーションが下がっている人をつなぎとめることを狙ったんです。
――『SICKS』でリアルタイム視聴を狙ったのですか?
はい。本当だったら番宣するのに、「コントがだんだんドラマになっていく」って言った方がいいんですよ。でも一切それをやらなかった。それはテレビの原体験である、リアルタイムでみんなが盛り上がるっていうのをやりたかったんです。この戦略は、うまくいったところもあるし、うまくいかなかったところもある。でも、そうやってちょっとずつチャレンジしていって、テレビはネットとかスマホで見るものに比べたら不便ですけど、それを超える価値のあるものを作れたら良いなと思っているんです。
――そんな佐久間さんが、テレビマンを志すにあたって、影響を受けた番組は何ですか?
たくさんあるんですよね…。でもやっぱり『ごっつええ感じ』かなぁ。本当に声を上げて笑っていましたからね。それに、表現の最前線って、今はマンガかもしれないけど、『ごっつ』が放送されていたあの時期は、あの番組のコントがいろんな物に影響を与えていて、表現の最前線だったって思うんです。
――それが日曜20時というど真ん中のファミリーの時間帯で放送されていたという時代が、確かにあったということですよね。
それがすごいことだと思いますね。日本が高齢化していますから、お年寄り向けに番組を作るのは全然いいんですけど、そうではない「あれを見て育ちました」って言う人が増える番組を作りたいと思うんです。
――いろいろお話を聞かせていただき、ありがとうございました。最後に、佐久間さんの気になっている"テレビ屋"をお伺いしたいのですが…
フジテレビの木月洋介さん。フジで一番風通しのいいものを作る人だと思っていて、いろんなカルチャーも自由に取り入れるし、かつ『ヨルタモリ』みたいな、あんなにおしゃれですてきなものも作れるし、万能型だと思います。なんでも作れるのは、僕はできないので…うらましいなと思うタイプの制作者の一人ですね。
■プロフィール
佐久間宣行(さくま・のぶゆき)
1975年福島県いわき市生まれ。早稲田大学商学部を卒業後、1999年テレビ東京に入社。『クイズところ変れば!?』『ペット大集合!ポチたま』『TVチャンピオン』などをへて、『ゴッドタン』『ピラメキーノ』などを担当。現在は『ゴッドタン』に加え、『ウレロ☆無限大少女』『~突撃!はじめましてバラエティ~ イチゲンさん』で演出・プロデュースを手掛ける。
●影響を受けたテレビ番組:『ダウンタウンのごっつええ感じ』
フジテレビ系、1991年~1997年に日曜20時枠で放送。ダウンタウン(浜田雅功・松本人志)を中心に、今田耕司、東野幸治、130R(板尾創路・蔵野孝洋)、YOU、篠原涼子といったレギュラー陣で、「AHOAHOMAN」「Mr.BATER」「世紀末戦隊ゴレンジャイ」などのコントや、「THE TEAM FIGHT」といった企画が人気を集めた。