――番組が走り始めて、気付かされたことはありますか?
一般人がテレビのネタになるのって、これまでは大きな不幸を背負ってる人や何かしら特殊な体験やキャラがあるような目立ってる人でしたけど、でも名も無き普通の人が当たり前に生きてきた人生って大きな説得力があって十分ネタになるということを確信しました。例えば、ある家に結婚相手のことも知らずに親に言われるがまま嫁いできて、そのままその農家の仕事を夫が亡くなったあともずっと50年以上やり続けてきたというような人生の重みは思った以上でしたね。どんな人にも必ず人生はあるんですよ。
――所ジョージさんの魅力というのは、いかがですか?
存在としての重みがやっぱり段違いだと思います。番組名を聞いて、「ああ、あの所さんの?」というリアクションがあるのは実はスゴいことだな、と。あと所さんは意外と物事に対して誠実、というか正直。だからVTRを見るときの姿勢が前のめりになってるだけで、視聴者にとってそのVTRがすごく興味深いものに映るんですよね。
――林先生はいかがですか?
これまでの林先生が出てる番組って、林先生の反応には必ず情報や知識が入ってた。その知識も含めて林先生の価値だったと思うんですけど、この番組のVTRに出てくる人たちの前では、知識が何の意味も持たないんですよね。あの林先生が知識を出さずにリアクションしてるってことが新鮮で、だからこそ逆にすごく説得力があるんです。ある意味、他の林先生の番組がフリになって林先生の存在の意味が出てると思います。
――ドヤ顔をしない林先生(笑)
そうなんですよ、ドヤ顔できないんです(笑)。同じことを何十年もやり続けてきた人たちの前では、林先生の持っている知識は無力なんですよ。最初は、その土地の情報を話してもらったりする林先生のパートがあったんですけど、この番組での役割はそうじゃないんだなと途中で気づきました。
――あらためて、『ポツンと一軒家』の人気の秘密はどのように分析されていますか?
2点あって、1つは人が住んでるのかどうか分からないような田舎にある古びた家を誰もが見た経験があると思うんですが、そんな家に一体どんな人が住んでるんだろうという潜在的な“あるある”を突いたこと。しかもその光景って地方が抱えてる過疎化の問題も含んでて、大人が見れる番組になってるんだろうな、と。もう1つはやはり “普通の人”が自分にとっての“当たり前”を何十年も続けていることが、共感と感動を生んでるんだと思います。だから、この番組が刺ささる層は、やっぱり50~60代以上の長く人生を生きてる年輩で、自分の人生も肯定されてるような気分になるんじゃないかと思いますね。
――日曜20時台は『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ)の独壇場だったところ、『ポツンと一軒家』が関東でも世帯視聴率で3回上回って、強力なライバルに名乗りを上げましたが、“打倒イッテQ”という意識はあるのですか?
まったくないですね。「打倒」なんておこがましいですよ。月曜日、学校で話題になるような番組は国宝級に大事にしなきゃいけないと思います。だから共存共栄が理想です(笑)。『ポツンと一軒家』の肝が、1つのことをずっとやり続けた“普通の人の人生の迫力”だとしたら、若年層は共感という意味でそれを理解できないのは当然だし、その層以外の高い年齢層が楽しみにしてくれればいいと思ってます。時々、3層(50歳)以上で数字をとってる番組を批判的に言う人もいますけど、世代関係なく、楽しみにしてる視聴者がいるかどうかが肝心なんじゃないかと思いますね。
■類似企画への印象は…
――Google Earthで気になったところに行ってみる…という類似企画も出てきましたが、元祖の身からするといかがですか?
テレビ番組を“商品”と捉えるか“作品”と捉えるかという2つの考え方があると思うんですよ。例えば、パンケーキという商品が流行ったらいろんなお店で少しアレンジしたパンケーキを出すようになるじゃないですか。だから商品としてこの番組を捉えると、類似企画が増えるのは当然だろうし、裏を返せばヒットしてるということでもあるのでそういった意味じゃうれしいけど、作品として見たときには、せっかく放送する枠を持ってるんだから別の可能性を探ればいいのに、と残念な気持ちになりますね(笑)。でも、現場的には両方のせめぎ合いになるのも判るので、編成から「この枠は売れる商品をつくってほしい」「この枠はとにかく話題になる作品を」とか、明確にすみ分けて発注されれば仕事しやすいのにと思いますね。
――そういった類似企画が出る中で、今後の『ポツンと一軒家』の展望を教えてください。
そこに住み続けている人がこの番組の主人公なら、そこから離れていく人も主人公になり得ると思うんですよ。どっちもその選択をした決断と人生があるわけだから。後者の主人公にはまだ触ってないんで、そこを軸に何かできないかとスタッフと話しています。具体的な内容は言えませんけど、同じように普通に生きてる人たちを主軸にしたものがいくつもできると思うんですよね。