注目を集めるテレビ番組のディレクター、プロデューサー、放送作家、脚本家たちを、プロフェッショナルとしての尊敬の念を込めて“テレビ屋”と呼び、作り手の素顔を通して、番組の面白さを探っていく連載インタビュー「テレビ屋の声」。
今回の“テレビ屋”は、激戦区の日曜ゴールデンタイムで快進撃を続ける、ABCテレビ・テレビ朝日系バラエティ番組『ポツンと一軒家』(毎週日曜19:58~ ※3月31日は18:30~2時間半SP)の構成を務める放送作家の中野俊成氏。このヒット番組が生まれたのは、企画書が通ったのではなく「勝手にやっちゃった」…!?
■10年間引っかからなかった企画
――当連載に前回登場したフジテレビのマイアミ啓太さんが『ポツンと一軒家』について、「僕と考えてることも全然違うでしょうし、なぜあの企画を思いついたのかという原点もそうなんですけど、それをテレビでやるというのがすごいなと思う」とお話ししていました。どのような経緯で番組が成立したのでしょうか?
所(ジョージ)さんと林(修)先生で『人生で大事なことは○○から学んだ』(2017年1月~9月)という番組があったんですが、数字的に不調で早々に終了が確定したのを機に見放されて(笑)、お上から内容に口を出されなくなったのでやりたいことをやって終わろうと。そのときに『ポツンと一軒家』のアイデアを出しました。今のテレビ業界って、数字が悪いと放送回数自体も奪われるので、1カ月に1回しか放送がなくなって暇になった熊田(明弘)君という若いディレクターが、「時間があったんで撮ってきました」って自主的に撮りに行ってて(笑)。そのVTRを会議で見てみたら面白かったので「これだ!」って(笑)。だから企画書が編成で通った訳じゃないんですよね、勝手にやっちゃった訳だから(笑)
――その時点で、今放送されている形になっていたんですか?
ほぼそうですね。それであらためて企画を詰めてロケ取材して放送したら、4%だった視聴率が倍になった。日曜20時台で8%は芽があるということで、『人生○○』が終了後、『ポツンと一軒家』単体の特番が放送されて、裏環境に恵まれていたこともあったんですけど、いきなり15%を超えてレギュラーの足がかりになったという経緯です。
――この企画はどのように思いつかれたのでしょうか?
思いついたも何もGoogle Earthが出た時から、台本書いてる合間にいろんな場所を見て現実逃避してたのがキッカケです(笑)。ここに住むとどんな生活になるんだろうと妄想するのが好きで。でも、企画って思いついたことよりもそれをやろうとジャッジするほうが大事なんだと思ってます。そもそもこの企画自体、ここ10年で何度かいろんな会議で出してきたんだけど、「普通の家を訪ねて番組になりますかねぇ」って全然引っかからなくて。それが長年一緒に『劇的ビフォーアフター』をつくってきたチームだったので、初めて「面白そう!」と賛同してもらえた。総合演出の高橋章良をはじめ、古原(幸一)、古賀(謙一)という演出陣と放送作家の伊藤正宏さんという20年近く一緒にやってきた仲間の共通感覚があってこそだったと思います。仮に過去にこの企画が通ってたとしてもこのチームじゃなかったら果たして成功してたかどうかは確信が持てないですね。
――“ジャッジするほう”というのは演出家ということですか?
そうですね。結局、番組って演出家が見えるかどうかだと思うんです。作家はその立場にないと思うので。演出家って作家とは明らかに見えてるものが違うと思うんですよ。例えば、『アメトーーク!』『ロンドンハーツ』で一緒の加地(倫三)君とはもう20年近く仕事してるけど、いまだに自分とは違う次元でジャッジしてるなと感じますね。で、ちゃんと笑いにつながってる。常に芸人さんたちのメンタルや現場の生きた情報がアップデートされてるから、作家では追いつかないんですよね。同様に、『プレバト!』の水野(雅之)君なんかも、俳句に真剣に取り組んでくれる出演者のメンタルを把握するために、番組では使わないのに人知れず毎回、出演者と同じように苦労しながら俳句を作ってる。そうすることでお題のレベルなど番組の品質管理をしてるんですよ。
――番組の品質管理ですか?
はい。それって演出家の重要な仕事だと思いますね。『あいつ今何してる?』(テレビ朝日)を見て、ある演出家が「もっと泣かせにいった方が数字とれるのに」と言ってたらしいんだけど、たしかにやりようによってはもっとあざとく下世話に描くこともできるし、その人が言うようにもしかしたら数字も上がるかもしれない。でもあの品の良さというか下世話に落とさない品質管理は芦田(太郎)君のジャッジに拠るところが大きいし、僕はあの番組の正義にもなってると思ってます。別にすべてのテレビが下世話な興味でつくらなきゃいけないって訳でもないと思うし。そういった意味じゃ『ポツンと一軒家』もやっぱり総合演出の高橋君がトーン&マナーというか、しっかり品質管理をしてるから安心できる。
■リスペクトをもって描く“正義”
――ところで『家、ついて行ってイイですか?』だと、取材成立の確率が本当に低いと聞いたのですが、『ポツンと一軒家』はどうですか?
やっぱり最初は得体の知れない番組なので、成立する確率は低かったですが、かなり早い段階から「番組見てるよ」って認知度も上がってきて番組が受け入れられてきたので、人が住んでる家にたどり着けば成立する確率は高いほうじゃないかと思います。
――放送されて、番組が信頼を得ているんですね。
演出陣と共に「突然訪ねてお話を伺うので、ちゃんとリスペクトをもってその人の人生を描く」ということを番組の正義にしたんです。それが画面を通して伝わってるんじゃないかと思いますね。放送後に取材した人や家族の方からお礼の手紙や喜びのメール、さらに電話をいただくことも多いみたいです。