『イッテQ』は定型テクニックの逆をやってる

――そうして各局のいろんな制作者とお仕事されて、それぞれどんな印象を持っていますか?

『(世界の果てまで)イッテQ!』の古立(善之)くんは、客観的に見て、今本当に大変なところにいると思います。「今は何をやっても数字が取れない」と嘆くテレビマンが圧倒的に多い中、高視聴率を取っている。ディレクターと演者さんがストイックに手間ひまかけてクオリティの高いものを作れば20%取れるというのを唯一証明してる。「何をやっても取れない」という言い方は違うんじゃないか、と。本人はどう思ってるのか聞いたことないけど、最後の砦みたいな大変なところにいるなぁと思います(笑)。でも、日曜の日テレがなかったら、本当にバラエティはもう20%取れないって言われてたんじゃないかなぁ。

――『イッテQ』は、ひと言で表すとどんな番組ですか?

職人ディレクターが腕を競い合う“ディレクターショー”だと思います。僕は伊藤さんという演出家に育ててもらった作家だから、ディレクターショーって見てて気持ちがいいんですよ。一時期、放送作家が注目される時期があったじゃないですか。あれはちょっと気持ち悪い(笑)。僕はバラエティは基本、ディレクターがピッチャーで、作家はキャッチャーだと思ってるので。先日、土屋さんがツイートしてましたけど、『イッテQ』はVTRの中で、担当ディレクターの名前が出ますもんね。笑いを求めるVTRの中で自分の名前を出すって、相当の覚悟がいりますもんね。

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    『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ系、毎週日曜19:58~)

――日テレさんの番組は、古立さんがやってる『月曜から夜ふかし』もそうですけど、他にも『笑ってコラえて!』や『マツコ会議』も、ディレクターさんが見えますよね。

その伝統はありますよね。必要なところで出てくるので、いいなと思いますね。あと、『イッテQ』は、今のテレビで定型となっているテクニックの全部逆をやってるような気がします。アバン(オープニングの映像)で一部隠してピークの画を見せちゃったり、キューカット(CM前の映像)のたびに同じ画を何回も見せたり、ワイプを入れ倒すとか、テレビマンが視聴者に見てほしいあまりついついやりがちな手法をあんまりやってないですよね。『イッテQ』はアバンが極めて短いし、本当のピークの画は見せていない。CMの入り方もあざとくないし、波音立てずにきれいに入水する。内村(光良)さんの笑い声はめちゃくちゃ聞こえるのにワイプはあまり入ってこない。強い画はなるだけ汚さないようにしている。かと思うと、時たま惜しげも無く大胆な編集をしている。上手いなあと思いますよね。古立くんって、打者心理というか、視聴者心理を読むのが上手いんだろうな。

放送作家界の“裏かぶり”事情

――『アメトーーク!』では、「○○芸人」のネタ出しをするのが作家さんの仕事になるんですか?

いや、そこは、芸人さんや加地くんから出ることが多いです。作家がLINEで加地くんに提案することもあるし、会議で何となく今度何しようかと話すこともあります。作家が職業的に出すできそうなテーマよりも、極めて個人的なテーマの方が番組には合ってると思うので。だって「ネギ芸人」でいいんだから(笑)。我々の仕事はそれよりも、「○○芸人」だったらどんな要素が必要かというネタを出し合って、会議で設計図を作ります。それを元にアンケート投げたり、取材したり、VTRを作ったりして、全部出そろったところで、本当にその流れでいいのかをチェックして…という感じです。若手芸人とか、ここがチャンスとばかりにものすごい勢いでアンケートを書いてきたりしますから(笑)

――そうすると、芸人さんたちがフリーでトークする「立ちトーーク」は、完全にお任せになるんですね(笑)

そうです。だから、あれは正直言って、作家としては複雑ですね(笑)。キャスティングの名前出し以外は何もやっていない。

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    『アメトーーク!』(テレビ朝日系、毎週木曜23:15~ ※一部地域除く)
    (C)テレビ朝日

――加地さんとは『アメトーーク!』に加え、『ロンハー』もやられていますが、日曜20時台の『稲妻!ロンドンハーツ』から担当されているんですか?

『ロンハー』は、火曜21時台に移ってからです。日曜は当時『特命リサーチ200X』をやっていたので。

――作家さんにも、“裏かぶり”回避ってあるんですね!

今でも、裏の枠で新番組を立ち上げるということは絶対しないです。ただ、今、番組の枠移動が多いから、『日曜もアメトーーク!』の日曜夜7時みたいに、長年やってた番組が『イッテQ 』のすごい近いところに配置されてしまうことがあります。どちらかがスペシャルになれば被っちゃうから、一応、沈痛な面持ちで断りを入れますけど、だいたい「ああ、いいですよ」って言われます(笑)。今、どこの局も特番とか、放送日が決まらないまま、会議が始まったりするし、これはもう作家じゃどうにもならない問題なので、そうなった時は「ごめん」というしかないです。でも、ちゃんとしてる上の人ほどその辺の事情を分かってるから、「こちらこそ」って感じです。

超前倒しの『あいつ今何してる?』芦田太郎P

――でも、レギュラーで十数本も抱えてると、相当お忙しいですよね?

レギュラーだけだと会議の時間もやることも決まってるから、そのペースを体に覚えさせていくだけなので、全然大丈夫なんですけど、特番がくるとしんどい(笑)。だって、単発の番組だって、3~4カ月同じように週1回で会議がありますからね。仮に10本レギュラーがあったとしても、特番5本あると15本やってるのと同じなんですよ。しかも、特番は会議が早い時間か、遅い時間になりがちなので、体にきます。

そういう中で、『あいつ今何してる?』(テレ朝)の芦田(太郎)くんと仕事してると、すごく効率がいいなぁと思いますね。芦田くんはまだ30代前半なんですけど、相談事は会議を待たずにすぐグループLINEで来るので、会議は異常に短い。それにVTRが1本上がるたびに「チェックお願いします」とすぐにデータで送られてくるので、みんなで会議室に集まってVTRをプレビューすることもない。あと、テレビマンってだいたいギリギリまで粘って作る、いわゆる“ケツ合わせ”の人の方が多いんですけど、芦田くんって超前倒しなんですよ。たぶん、企画書を来週までに出せって言われても、翌日には出してるんじゃないかっていうくらいの感じ。それが一緒に仕事してていいなぁと思って、自分も見習って何事も前倒しにしてみたら、この方が自分には合ってるなと気がついたんです。まさかこの年(54歳)になって、30代の若者から仕事の仕方の影響を受けるなんて思わなかったですけど(笑)

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    『あいつ今何してる?』(テレビ朝日系、毎週水曜19:00~ ※一部地域除く)
    (C)テレビ朝日

――芦田さんの『ファクトリサーチTV』なんて、いとうせいこうさんのツイートを見て、すぐ書いた企画書が翌日に通ったって話ですよね。

そうそう! あのスピード感はすごいですよね。でも『あいつ今何してる?』をやってると、人間の記憶って面白いなと思いますね。人ってどこか自分に収まりのいいように記憶している。人間ってよくできてるなと思います。

――あの番組って、芸能人の方が卒業アルバム見ながら話したことが、その後同級生に否定されることがよくありますけど、本当はどっちが正しいか分からないですよね。

そうなんですよ。記憶の回収や答え合わせって面白いですよね。もしかしたら両方正しくないかもしれない。だから、『元気が出るテレビ』で自分がどんな企画を出したのかって、あまり言いたくないんです(笑)。他の作家が違う風に覚えてたら嫌だなって思うんで(笑)。でも、僕は30年前の作家仲間があの頃出した企画は俺だけでも覚えておいてあげようと思って、記憶してますよ。広川くんは「失恋傷心バスツアー」、池田(一之)さんは「幸せの黄色いハンカチ」、堀田(佳己)は「勇気告白」みたいに。今じゃ詠み人知らずみたいになってるけど。

『元テレ』に出した「これができたら10万円」

――その中でも、そーたにさんが出した企画をぜひ教えていただきたいのですが…。

あんまり言いたくないのって、別に謙そんしてるわけじゃなくて、企画ってあくまでベクトルの0から1なんですよ。その1が50になるか、100になるかは、それはもう制作や演者さんの力量。ゼロイチでいいなら『お笑いウルトラ』は出してます。あと『元気が出るテレビ』の頃に、「これができたら10万円」って出したら、募集告知を作りそうになって、なくなったんですけど、結果それでよかった(笑)

――そういう一度なくなって、しばらくたってから日の目を見る企画は、他にも結構あるんですか?

全然ありますよ。なすびの懸賞生活(『電波少年』)だってその2年前くらいに土屋さんの別の番組で出したものなんですけど、何回も出すとカッコ悪いから、人々の記憶から消えた頃、『電波』のリニューアル期に出した。覚えてる人がいると嫌だから、一番後ろのページに4行ぐらいで。でも、前の受け皿だったら失敗してたと思う。のちに機材や技術が追いついて、土屋さんがあのシステムを構築していなかったら、ああいう風にはなってなかっただろうと思います。でも、今だとSNSの監視下に置かれるし、YouTuberの画と被るから、あのタイミングだったんでしょうね。