注目を集めるテレビ番組のディレクター、プロデューサー、放送作家、脚本家たちを、プロフェッショナルとしての尊敬の念を込めて“テレビ屋”と呼び、作り手の素顔を通して、番組の面白さを探っていく連載インタビュー「テレビ屋の声」。
今回の“テレビ屋”は、アイドルグループ・関ジャニ∞が出演するテレビ朝日系音楽バラエティ番組『関ジャム 完全燃SHOW』演出・プロデューサーの藤城剛氏。音楽の魅力を分析していくという切り口で注目を集める番組が、どのように形作られてきたのか。そして、年内でジャニーズ事務所を退所し、関ジャニ∞を脱退する渋谷すばるのラスト出演となった、7月8日の生放送の裏側も聞いた――。
手探りのままスタート
――当連載に前回登場した『ねほりんぱほりん』(NHK)の大古滋久チーフ・プロデューサーが、『関ジャム 完全燃SHOW』について「バラエティに富んだ解説陣が奥深いプロの技の公開する中で、音楽の魅力を因数分解したり解体したりしながら伝えてくれるというのが、毎回面白いです」とお話しされていました。
ありがとうございます。勝手に調べさせていただいたら、今でも記憶にある広島カープの津田恒美さんのドキュメンタリーも作られていた方でした。
――『関ジャム』にはどのような経緯で参加したんですか?
『関ジャニの仕分け∞』(2011年~15年)をやっていたチームが、今度は関ジャニ∞で音楽バラエティをやることになって、そこに音楽班のチームも参加するんですが、『ミュージックステーション』を作った山本たかおさんが、なぜか僕を演出に呼んでくれたんです。
――音楽番組には、それまで携わっていなかったのですか?
全くありません。もともと僕は入社年に始まった『ロンドンハーツ』に配属されて以来、20年ずっとお笑いバラエティの班で、今もディレクターをやっています。ですから、アーティストさんともジャニーズの方とも仕事するのは初めてでしたし、学生時代にバンド経験とか、そんなこともありませんでした。
――そんな状況で、声をかけられた時はどんな心境でしたか?
「僕でいいんですかと?」と思いましたが、偉い人が「いいよ」と言ってくれるなら、「じゃあやります」って(笑)。自分発信の企画ではないですし、不安だらけでしたが、未知のジャンルの番組に参加できると思い、好奇心が勝った感じです。自分が音楽に携わるならどうすればいいのかと考えた時、当初はアーティストの方がどうやって曲を作るのかという話を広げる一方で、アーティストの裏の顔をバラエティっぽく見せる、両方のアプローチで手探りのままスタートしました。
――そこから、現在は音楽を徹底解剖するということに重点が置かれるようになってきましたよね。どのような転機があったのですか?
番組がスタートしてしばらく経ったところで、会社の方から色々アドバイスをいただく中で、番組としてオリジナルな感じを出せていないなと率直に思いました。バラエティに寄せてるわけでもなく、音楽に特化しているわけでもなく…両方が中途半端になってるなと思った時に、ゲスの極み乙女。さんが即興で作詞作曲をした回が、ドキュメント感があって見応えがあったなと。色々なことを毎週試す中で、少しずつ光が見えてきた感じです。それと、関ジャニ∞は今、さまざまな番組で活躍してますけど、彼らはしっかりと音楽に向き合ってるグループなので、その部分を掘り下げることで、番組の真ん中にいる意味がより出るのかなと思ったんです。マニアックに行き過ぎず音楽に特化することが、番組のオリジナリティになるんじゃないかなと考えて、だんだん今の形になってきました。
――『関ジャム』にとっての関ジャニ∞の役割を見直したということですか?
そうかもしれないです。自分が上司の加地(倫三ゼネラルプロデューサー)の元で学んだことの1つに、“その演者さんだからこそ輝く企画を見つける”的なことがあります。ロンブーさんにとっての『ロンハー』や、雨上がりさんにとっての『アメトーーク!』は、そのメインMCでなければいけない理由があったからヒット番組になったのだと思います。どんな番組を作るにせよ、そこに一歩でも近づくことができれば、という思いはあります。関ジャニ∞という音楽のプレイヤーであり、専門家と視聴者の橋渡しも楽しくこなせるメンバーだからできる音楽バラエティが生み出せたらなと。
――音楽分析のトークは深いところまで切り込んでいきますし、それに加え、練習が必要なセッションも毎週あるじゃないですか。相当準備が大変な番組だと思うのですが…。
そうですね、こちらから頼んでおいてなんですが、関ジャニ∞はめちゃくちゃ大変だと思います。夜遅くまで収録して、セッションの個人練習・全体リハは別日にやってもらってるので…本当に感謝しています。その分僕らも毎回、関ジャニ∞や支配人である古田新太さんの音楽的好奇心を煽るようなテーマを提示しなければ、というプレッシャーがありますので、お互い良い緊張感が保たれているのかと。
プロの技にただただ圧倒される
――企画が決まってからスタジオ収録までは、だいたいどれくらいの期間をかけているんですか?
およそ1カ月、テーマによっては2カ月くらいのこともあります。バラエティの中で、芸人さんだったらなんとなく勝手が分かるので、こういう企画だったらこういう風にできるかなって相談できるんですが、アーティストの方たちの生理とか考え方っていうのを自分は根本的には分かっていないと思うので、そこを間違えないようにしなきゃいけないというのは一番気をつけてますね。楽曲の分析がメインになるような企画だと、何でもかんでも手の内を明かしてもらえば良いというものでもないと思うんですよ。例えば、お笑いのフィールドだったら、芸人さんに「このネタどうやって作ってるんですか?」なんて聞くのは野暮だと思うので。だから、そのへんのさじ加減は、毎回悩みどころです。
――でも、アーティストの皆さんにしてみたら、こんなに音楽を語れるテレビ番組ってなかなかないので、うれしい部分もあるんじゃないですかね。
そう言っていただけることが多いので、余計に事実やニュアンスを誤って伝えないようにしなきゃと思いますね。先日もサカナクションの山口一郎さんの音への変態的なこだわりを紹介させていただきましたが、一方で音楽に詳しくない視聴者のことも考えると、ディープすぎる話題を、地上波の23時台でどうやって面白いと感じてもらえるかも、気をつけなければいけないと感じます。そのアーティストの方をあまり知らない人でも楽しく見れるか、分かった気になれるかというのは、毎回スタッフ一同で話し合うところですね。
――大古さんは、水野良樹さんがサイコロを振って出たお題の組み合わせで、いきものがかりの「ありがとう」を即興アレンジする回が特に感動したと言っていました。
あれは、スタジオミュージシャンのすごさを水野さんが伝えたいっていう持ち込み企画だったんですよ。そこから、どうやったら楽しくそれを伝えられるだろうと考えるのが僕らの仕事で、水野さんと相談の上「サイコロを振ってその場でアレンジしてもらうとか、アリですか?」ってお伺いを立てたら、「じゃあやってみましょう」と言っていただいたんです。それをやってのけるプロの人たちに、ただただ圧倒されました。
――藤城さんの中での“会心の回”はありますか?
最近では管楽器を特集した回ですかね。世間的に、トランペットとかサックスは何となくイメージがあると思うんですけど、実はホルンってすごい難しいんだとか、チューバって大きな楽器があるとないとで全然違うんだとか、まあまあ楽器をやっている方にも面白いと思ってもらえて、全然詳しくない人にも「こんなにすごい世界なんだ」と楽しんでいただけたようで、準備は大変でしたがトライして良かったと思いました。