――毎回さまざまな人たちが登場されますが、番組をご担当されてから特に印象に残っている方はいらっしゃいますか?
毎回が印象的なんですが、東日本大震災で被災して、そこから復興で頑張って立ち上がる人を『人生の楽園』の主人公として紹介するというのを、2013年くらいから始めまして、これまで6~7組紹介してるんですけど、そこには思い入れが強いですね。最初は、未曽有の災害を受けた場所を『人生の楽園』なんて言っていいのか、あまりに能天気ではないかと、賛否両論あったんです。でも、地域を巻き込みながら何かに挑戦する姿というのは、『人生の楽園』という枠で捉えてもいいんじゃないかという思いがありまして、やっています。
正統派のドキュメンタリー番組で、被災地の現状を伝える特集ってよくあるじゃないですか。被災地が抱える政治問題・社会問題や、そういう困難の中で復興に頑張ってる方に密着するというもの。でも、「震災から○年、被災地の今…」というパッケージにすると、見る人の心理的ハードルが上がってしまうと思うんです。
――ああ、たしかに構えてしまう。
そうそう、構えてしまうんです。だから、ぶっちゃけなかなかそういう番組は、視聴率がとりにくいということもあって、東日本大震災のドキュメンタリーは地上波でやりにくくなってるんですよ。でも、『人生の楽園』というパッケージで、「今こんな風に暮らしている方がいますよ」って紹介すると、結構心理的ハードルが低いまま入っていけちゃう。そうすると、その人の暮らしを通じて、被災地の置かれている状況がすごく分かったりするんですね。なので、被災地の今っていうのは『人生の楽園』みたいなパッケージの番組が実は一番よく伝えることができるじゃないかと思って、意義も感じているので、今後も続けていければと考えています。
――『人生の楽園』は報道局制作の番組ということですが、まさに意義がありますね。こうして、いろんな人の第二の人生をご覧になってると思うんですが、ご自身がそれに感化されて、セミリタイアや移住を考えることもありますか?
そうですね。具体的にはまだ考えてないですけど、毎回ディレクターが撮ってくる映像を見て思うのは、本当に日本は風光明媚で素晴らしい場所がいっぱいあるんだなということ。有名な観光地以外にもたくさんあって、満員電車に乗ってると、なんでこんな豊かな国土があるのに、自分は都会でひしめきあってるんだろうと思ったり…(笑)。やっぱり、豊かな自然に抱かれて暮らしたいなっていう思いは、この番組をやって強くなりましたね。
――実際にスタッフの中で、田舎に移住された方もいらっしゃるんですか?
番組スタート当初からやっているディレクターが、北海道の旭川に家族で移住しました。まだ『人生の楽園』もやってもらっているので、東京と旭川を行ったり来たりしたりという生活をしていますね。
『元気が出るテレビ』とまさかの共通点
――これまでに森川さんが影響を受けたテレビ番組を1本挙げるとすると、何ですか?
『NHKスペシャル』はやっぱりすごいなとお手本にして見ていたんですけど、それ以上のインパクトで言うと、『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』(日テレ)ですね。僕が大学4年生の春から始まった番組なので、新人時代にずっと見ていて非常に衝撃を受けた番組なんですよ。
あれはドキュメントバラエティーの走りですけど、やっぱり光の当たってない市井の人の面白さを見つけるっていうところとか、そのままで十分面白いのに満足せず、もっと破壊的に面白くしてやろうという熱というかエネルギーみたいなのをすごく感じて、毎回面白いなと思いつつ、「俺、怖い世界に入っちゃったな」とも思いましたね(笑)。半端な気持ちで番組を作っちゃいけない、このくらいの気構えで番組を作んなきゃいけないなっていうことを思いながら見ていた記憶があります。
――『人生の楽園』と『元気が出るテレビ』という一見真逆の番組が、「光の当たっていないところの面白さを紹介する」という底流にある部分でつながっているのは、面白いですね。それでバラエティ志望にはならなかったんですか?
逆にあれを見たから、バラエティは無理だと思ったんじゃないですかね(笑)
――いろいろお話を聞かせていただき、ありがとうございました。最後に、気になっている"テレビ屋"を伺いたいのですが…
『クレイジージャーニー』(TBS)って、かなり危ないところに行ってるじゃないですか。今、テレビ局は安全管理にも敏感になっているんですが、「こんなところ大丈夫!?」っていうところにもどんどん行ってる。おそらく、それはただ闇雲に危険地帯に突っ込んでるんじゃなくて、周到なリスクコントロールをしながら、ある部分では腹をくくってああいう番組が成り立ってると思うので、そのあたりの感じを聞いてみたいですね。あと単純に、どういう取材体制を組んでいるのかも知りたいです。ゾロゾロと何人も行けないんじゃないかな。