林先生の"ひねくれた"感じを出す
――もう1つ、『林先生が驚く初耳学!』も演出されていますが、この番組は林修先生と水野さんの師弟関係があってこその番組ですよね。まずは知り合ったきっかけから教えてください。
僕が高校2年生の時です。林先生がまだ若手の予備校講師だった時に、名古屋の小さい塾でも教えてたんですよ。東進ハイスクールに内緒で(笑)。そこにいたのが僕だったんです。20人くらいの少人数の塾で、僕がイジられながら授業が進んで、終わった後に僕だけ一緒にご飯を食べに行くという関係でした。
『林先生が驚く初耳学!』(MBS・TBS系、毎週日曜22:00~) |
――『初耳学』は、「なんでそんなこと知ってるんだよ!」っていう林先生のエピソードが多いですよね(笑)
ネタ元は僕です。先日、広瀬すずさんが暴露してくれた「教え子が少ない小遣いでたこ焼きを買ってきたのに、『俺そういうまずいものは食べないから』と言い放った」っていう話の被害者も、僕です。
――放り込みましたね(笑)。そんな関係もあって、林先生とはずっと番組をやりたいという思いを持っていたんですか?
2009年ごろ、『イチハチ』という番組で、予備校の先生8人というリサーチ資料があって、林先生の名前が挙がっていました。その企画は実現しなかったんですが、その後、「今でしょ!」でブレイクされたんで、いつかご一緒したいと思ってました。
――その後、再会されるんですね。
林先生がある番組の収録の時に、僕がスタジオに遊びに行ってお会いしたのが、17年ぶりくらいでしたね。僕が「お久しぶりです」って言う前に「お前何やってんの?」って林先生から言ってくれて。その流れで、隣にいた僕の上司に「コイツはテストの答案でこんなこと書いてた」とか「早稲田のややこしい過去問でコイツだけ満点取ったんですよ」とか、すごく覚えてくれてたんです。
――そして、いよいよ一緒に番組をやることに。
僕が塾で教わってたときに、林先生は2時間の授業で最初の30分は雑談をしてたんですよ。趣味の話とかグルメ自慢とか競馬の話とか。専門の現代文以外もとにかくいろんなジャンルに詳しかったので、番組を作るなら、その特徴を出した方が面白くなると思ったんです。あと、林先生がテレビに出始めた時は、知的でマジメそうな文化人扱いでしたが、実際はものすごくシニカルな人なので、そのひねくれた感じも出すべきだと思いました。
――林先生の冠レギュラー番組で言うと、テレ朝の『林修の今でしょ!講座』の方が先に始まっていましたよね。どのように差別化しようと考えましたか?
そこはあまり意識したことはないんですけど、僕の場合は、制作者と出演者というよりは、いつまでたっても結局は教え子と先生の関係性なので、自然と差別化はできるだろうなと思ってました。
――お2人の関係性がベースにあるからこそオリジナルな企画になるってことですね。
他の局の番組で、漢字や言葉の由来など、テレビ的な国語クイズのパッケージに林先生をはめ込んでいる企画もありましたが、『初耳学』の場合は、テレビ的じゃなくてもいいから、とにかく林先生の魅力を伝えることを大切にしています。授業中に使う小難しいボケをテレビに果敢に入れ込んでスベるのも林先生の魅力。一方、真剣な教育論も、授業を受けていた僕だからバラエティ番組に組み込めていると思います。
林先生でないと成立しなかった「教育」企画
――番組の構成として、林先生に問題を出すわけですが、せっかく解説のVTRを作っても、林先生が知っていた場合は、お蔵入りになってしまうわけですよね。
そうですね。でも、あれはしっかり保険をかけた演出なんです。もし林先生が知っていたら、見事な話術での解説が聞けるし、逆に初耳だったら、林先生ですら知らなかったVTRが流れるので、興味がわくはず。本来1つの番組だったら見方は1つしかないのに、『初耳学』では2つの仕掛けを用意しているんです。ちなみに、お蔵入りに見える解説VTRも、実は林先生の解説中にビジュアルで分かるように挿入しているので無駄にはなりません。これは企画段階からの計算です。
――林先生はブレイク当初、どうせ一発屋になるとおっしゃっていましたが、そうならずに人気司会者の仲間入りをした理由を、長いお付き合いからどう見ていますか?
自分の意見を自分の言葉で話せるから、視聴者の記憶に残るんだと思います。あと、林先生しか語れない分野がありますよね。先日(9月24日)放送した「教育の新常識SP」は、『キラキラネームと学力の相関』や『英語の幼児教育不要論』など、ご本人の意見がないと成立しない内容でしたし、灘中の教科書選びに関してあれだけ強い説得力でメッセージを発信できる人は、林先生以外いないと思います。
――話の分かりやすさの秘密は、どう分析していますか?
膨大な量の知識が脳の中で整理されてるんですよ。『初耳学』で問題が出た瞬間に、脳内の引き出しからこの情報とあの情報を持ってきて、この順番でしゃべるとみんなが興味を持って聞くだろう…という思考が早くて正確。『初耳学』は、"初耳"か"知ってる"かで白黒ハッキリさせていますけど、実は林先生が最も得意とするのは、知らないことでも自分の中のいくつかの断片的な情報を組み合わせて、論理的に正解にたどり着いてしまうことなんです。