――こちらも演出を手がけられている年末の特番『クイズ☆正解は一年後』についてもお伺いしたいのですが、この企画を思いついたきっかけなどはあるのでしょうか。
年末によく放送されている「1年振り返り番組」をヒントに思いつきました。ちょっと先のことを予想する番組や企画はこれまでもあったと思うんですが、それを1年後にして、収録した素材を1年間タイムカプセルのように寝かせたら、見たことのない番組になるんじゃないかなと。予算的な制約も厳しくなっている中で、お金をかけて人やセットを豪華にするんじゃなくて、時間をかけることでスケール感を出すというテーマもあります。
――この番組に出られる芸人さんは、本当に自由に回答したり、発言したりして、水を得た魚のように生き生きとしている印象があります。まるでほかの番組でがまんしているのを、ここで発散しているかのように(笑)
有吉(弘行)さんなんかは、今ほとんどがMCの仕事なので、ウチの番組で端っこのパネラー席に座って、責任がなくなった時の発散っぷりがひどいです(笑)。まあ、楽しんでもらえてなによりです。
――そういう環境を作り出すために、意識してることはありますか?
『クイズ☆タレント名鑑』(※)のときにできた空気感だと思うんですが、「こんな感じで遊んでくださいね」と多少の目線付けをしながら、演者さんにスタッフ側から球を投げるんです。そうすると、それに答えてくれるのはもちろん、時にこちらが予想もしていなかった遊びや展開を作ってくれることがあって、そんなときは「やられたな~」と。そうすると、「じゃあもっと面白い仕掛けを作らなきゃ!」となる。そして、向こうもさらに…というやり取りが、良い相乗効果になってでき上がったんだと思います。
(※)『クイズ☆タレント名鑑』
芸能人をテーマにしたクイズ番組。名前とともに検索されるワードをヒントに芸能人を当てるクイズや、むちゃな仕事をオファーしてその人が引き受けてくれるかどうかを当てるクイズなどが出題された。MCは『クイズ☆正解は一年後』と同じく、ロンドンブーツ1号2号・田村淳と、TBSアナウンサー(当時)・枡田絵理奈。
――今年の見どころは、なんでしょうか?
(ロンドンブーツ1号2号の田村)亮さんが、1年間しんどいことやってるんですよ、今。
――亮さんといえば、昨年の年始に、竹やぶに持っていたサイフを埋められて、年末の生放送中に、それを掘り起こして見つかるかというクイズにされていましたね(笑)
去年はお金とサイフがボロボロになっただけでしたが、今年は年間を通して、あるしんどいことをやってもらっています。ものすごい苦労しているのを知っているんですが、OAは夜中の2時くらいにたぶん10分くらい…。このクイズを思いついた時点で申し訳ないなとは思ったんですけど、でも面白いしなぁ…すみません!って感じです。
――『水曜日のダウンタウン』や『クイズ☆タレント名鑑』など、藤井さんの番組では、おしゃれなアニメーションやロゴを使われていますよね。
特別に意識している訳ではなく、自分のデザイン的な好みを反映させているだけです。最初のうちは、前にこういうパターンをやったから次はガラッと変えたいな、などと思っていたんですが、今は、内容でちゃんと変化をつけられていれば、アートワークの特徴はあえて目印として残しておいてもいいかなと考えるようになりましたね。
――番組演出では音楽にもこだわっている印象です。
画面のデザインと一緒で音楽も、自分の好みを邪魔しない範囲で多少前に出すようにはしています。楽曲の好みにこだわりすぎて、面白さを邪魔してしまったら意味がないですが、それを崩さない中でこだわりが出せれば、番組のカラーになったり、別の深みになってくるのかな、とは思います。
――最近よく「テレビの規制が厳しくなっている」という話が、演者さんなどからも出ていますが、藤井さんもそのように感じますか?
もちろん感じることはたくさんあります。でも、全員同じルールでやっているので仕方ないかなとも思っています。
――そんな中で、藤井さんの番組は"攻めている"印象があります。
自分自身ではむちゃしているつもりは全然ないんですけどね。ダメだと言われたらちゃんとやめますし。無法者ではないと思います(笑)。攻めてやろう、ギリギリを突いてやろうという気持ちではなく、面白さを追求した結果、気付いたらギリギリな場所にいることがたまにある…という感じですかね。
――今後こういう番組を作りたいというような将来像はありますか?
「スケールの大きな番組をやったことがない」というコンプレックスがちょっとありますかね。細かいところを詰めていく作業はわりと得意なんですけど、小手先のテクニックに頼っている感といいますか…。時間やお金、世間の巻き込み方なんかも含めて、大規模な企画をやってみたいなあと思いますね。
――ところで、元日のゴールデンには『芸人キャノンボール2016』という特番を担当されますね。
これは、そもそも『テレクラキャノンボール』という大人のビデオの作品がありまして、その劇場版のヒットを受けた『プロレスキャノンボール』というオマージュ作品や、『BiSキャノンボール』という作品が製作されていたので、これはテレビでもやらなきゃいけないなと思って企画を提出しました。
――元日のゴールデン番組のルーツが大人のビデオ…。どのようなルールになるのでしょうか?
簡単に言うと借り物競争です。芸人さんが面白のセンスや交渉力、人脈を駆使して、与えられたお題にあった人やモノを探しながら、ゴールを目指して移動していくという内容になります。当初の企画はもっとお笑い色の強いものだったんですけれど、お正月のゴールデン帯で放送することになったので、少し王道的な内容に修正しました。車に分乗してレースをするんですけれど、有吉弘行さん、ロンドンブーツ1号2号さん、千原ジュニアさん、おぎやはぎさん、バカリズムさん、ケンドーコバヤシさん、出川哲朗さんといった豪華な人たちに参加してもらっています。
――いろいろお話を聞かせていただき、ありがとうございました。最後に、藤井さんが今気になっている"テレビ屋"をお伺いしたいのですが…
楽しみな番組が2つあって、それが『SICKS~みんながみんな、何かの病気~』(テレビ東京系 ※放送終了)と、『人生のパイセンTV』(フジテレビ系)です。指名してもらったから言うわけではなく、テレビ局員では『パイセンTV』のフジテレビ・萩原啓太さんが一番気になっていたんですが、そちらはもう指名できないということなので、ほぼ身内のスタッフですが、『SICKS』を担当している作家の大井洋一さんを。若くから業界の一線で活躍しながら、現在は某格闘技団体のランキング1位選手でもあるすごい男です。
■プロフィール
藤井健太郎(ふじい・けんたろう)
1980年4月16日生まれ。東京都出身。立教大学を卒業後2003年にTBSへ入社。最初は『はなまるマーケット』などの情報番組でADを務め、その後バラエティに異動。『リンカーン』『リンカーン』『ひみつの嵐ちゃん!』『さんまのSUPERからくりTV』『クイズ☆タレント名鑑』などをへて、現在『水曜日のダウンタウン』を担当している。
●影響を受けたテレビ番組:『進め!電波少年』
日本テレビ系、1992年~1998年放送。MCの松本明子や松村邦洋らが、事前に許可を取らない"アポなしロケ"を敢行するという危険な企画で人気となる。その後、当時無名のお笑いコンビ・猿岩石(有吉弘行、森脇和成)が行った「ユーラシア大陸横断ヒッチハイク」が社会現象化。以降は"Tプロデューサー"(土屋敏男氏)の命により、無名の芸人が体を張る企画がメインとなって、番組タイトルも『進ぬ!電波少年』へと移行した。