個人に目を向けると、この5年あまりで際立った活躍を見せたのは、断トツで松本人志だろう。もちろんこれまでもすごかったが、コロナ禍に突入して以降、次々に新たな特番に挑むなど、さらなる意欲を感じさせられた。ただ逆に言えば、「主にフジテレビとTBSが松本に頼り切り」にも見えてしまう。
フジテレビは、レギュラー番組の『ダウンタウンなう』『人志松本の酒のツマミになる話』『ワイドナショー』と、特番の『人志松本のすべらない話』『IPPONグランプリ』『HEY!HEY!NEO』があったが、特番の『まっちゃんねる』『まつもtoなかい』『FNSラフ&ミュージック~歌と笑いの祭典~』を次々に立ち上げた。
一方のTBSも、レギュラー番組の『水曜日のダウンタウン』『クレイジージャーニー』と、特番の『ドリーム東西ネタ合戦』『キングオブコント』があったが、特番の『審査委員長・松本人志』『お笑いの日』『お笑いアカデミー賞』を次々に立ち上げた。
日本テレビでも特番の『ダウンタウンvs Z世代 ヤバイ昭和あり?なし?』が新たにスタートしたことを含め、松本の影響力は増す一方。2月放送の番組で、「早ければ2年、遅くとも5年」と引退の時期にふれていたが、これは「辞められたら最も困る人」という状態を自覚しているからこそのコメントだったのではないか。
最後にバラエティ全体に話を戻すと、今問われているのは、「コア層の高視聴率に加えて、『TVerアワード バラエティ大賞』に2年連続で選ばれている『水曜日のダウンタウン』のような番組をいかに作っていくのか」なのかもしれない。
同番組の熱心なファンは演出の藤井健太郎に注目し、彼が手がける特番の『オールスター後夜祭』『クイズ☆正解は一年後』も見ているが、そのような人の割合はまだまだ少ない。バラエティでも、「脚本家・演出家・プロデューサーの名前で見る番組を決める」というドラマのような選び方をする人々が増えれば、コア視聴率と配信再生数は上昇するだろう。
人々がアイドルやアニメキャラなどに限らず“推し”を意識する時代になる中、テレビのバラエティも本腰を入れて「作り手の名前で見る番組を決める」という流れを作っていくべきではないか。
エンタテインメントの幅が広がり、選択肢は増える一方だけに、人々から推される演出家や放送作家などを計画的に作っていかなければ、テレビのバラエティが選ばれる割合は減っていくように見えてしまう。だからこそ、局も個人も「裏方だから」と引いたスタンスを採るのではなく、もっと前面に出してブランド化していく必要性を感じている。
■来週スタートの新連載は…『テレビ解説者・木村隆志のヨミトキ』
『週刊テレ贔屓』に代わる来週スタートの新連載は……『テレビ解説者・木村隆志のヨミトキ』。バラエティからドラマ、ドキュメンタリー、報道まで、テレビにまつわるさまざまなトピックスを読み解いていく。
週替わりのテーマは、話題の番組、素朴な疑問、意外な傾向などの多彩なラインナップを予定。時折、配信コンテンツ、芸能界、メディアなどの動向も絡めつつ、独自の視点から掘り下げていきたい。