テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第254回は、11日に放送されたフジテレビのバラエティ番組『なりゆき街道旅』(毎週日曜12:00~)をピックアップする。

同番組は「タレントたちが全国の街道を訪れる、台本も筋書きもないなりゆき任せの旅」というコンセプトで2018年4月にスタートし、放送期間はすでに4年半を越えた。

今回の放送は、MCの澤部佑が松尾諭、ロッチ・コカドケンタロウと行くドラマ『silent』のロケ地・世田谷代田の旅。「ロケ地めぐりのファンが殺到している」という街はどうなっているのか。また、バズった自局コンテンツをどう活用したのか。

  • ハライチの澤部佑

    ハライチの澤部佑

■コロナ禍で「なりゆき」は断念

「本日は甲州街道にほど近い世田谷代田周辺を旅したいと思います」という澤部のコメントから番組がスタート。“街道”をフィーチャーしたオープニングは、その歴史などを紹介するパートがあまり見られない今では違和感がある。

続いて松尾が「ごちゃごちゃしていて暗い。『ここはどこ?』って感じ」、コカドが「下北(沢)のほうはよく行きますよ」などと街の印象を語ったあと、『silent』の舞台であることを紹介。トークを交わしている場所もロケ地であり、聖地巡礼の盛り上がりを伝えたが、なんと澤部も松尾も「ドラマを見ていない」という。そんな「視聴者に対して正直にいこう」というスタンスなら、むしろ「人気に便乗した企画」であることも白状してしまったほうが心証はいいのではないか。

続いて澤部は「みなさんに事前に伺った行きたい場所の中から厳選した場所を巡ります!」と、すでにアポイントが取れていることを明かした。コロナ禍に入ってから、同番組は当初の「台本も筋書きもないなりゆき任せの旅」というコンセプトを断念。もはやロケをベースにした別番組のようであり、「よりタレントたちのトーク力やレポート力が問われる形になった」とも言える。

まず3人は、おととし4月オープンの商業施設「BONUS TRACK」にある「お粥とお酒ANDONシモキタ」へ。秋田の塩鮭を使ったおにぎり、お粥、だまこ汁風スープなどを食べ、澤部が早くも「うま街道!」という決めゼリフを放つ。ちなみに3人の食リポは、短い言葉とおいしそうな表情で見せる『バナナマンのせっかくグルメ!!』(TBS系)と同じシンプル路線だった。

この間のトークテーマは、松尾が芸能界に入ったきっかけ。2000年に上京し、「航空機のチケットを拾ったことから現在の事務所社長と出会った」というエピソードを話した。さらに、お会計はじゃんけんで澤部が2,660円を支払うことになったが、よくある「勝った!」「負けた…」のオーバーリアクションがないのは見やすい。

2軒目は、便利な道具がそろう「TENTのTEMPO」へ。フライパンやナイフなどを買った松尾の22,200円を筆頭に3人は買い物を楽しみ、そのまま買い物袋を持ったまま歩き出した。「芸能人が買い物袋を持ってそのまま街ブラする」という演出は力が抜けていて親近感を抱かせられる。

■聖地巡礼のファンたちと次々に遭遇

次の店へ向けて歩き始めると、コカドが「この道めちゃめちゃいいな。『silent』で使ってるところないんかな」と切り出す。すると澤部が「出てくるんですか?」と合いの手を入れ、コカドが「ぼかされてるからな。だいたい目黒蓮くんと川口春奈ちゃんにピント合ってるから」と返して笑わせた。

ほとんど内容のないやり取りだが、制作サイドが編集でフォローできただろう。ロケ地を具体的に説明しづらい事情があるのかもしれないが、聖地巡礼の人々が多い今、もう少しやりようがあったのではないか。実際、川口、目黒、鈴鹿央士、夏帆らが歩き、会話を交わしたスポットは多いだけに、何とも消化不良の感がある。

3人は2020年9月に開業した温浴施設「由縁別邸 代田」に着いたが、紹介だけで中に入らずスルー。撮影スケジュールの問題なのか、施設側の意向なのか、中年男性の入浴シーンは不要だからなのか、理由は分からないが、「なら何で紹介した?」の疑問が浮かんだ。

世田谷代田駅に着いた3人は、聖地巡礼している人に声をかけていく。なかでも『なりゆき街道旅』のロケ風景を見て「(『silent』の)撮影やってるのかと思っちゃった。遠くで見たら“めめ”(目黒蓮)に似てました」と話す女性の声は、リアルな盛り上がりを感じさせた。

3軒目は、「農大ショップ『農』の蔵」へ。3人は東京農業大学の卒業生が生産に携わっているビール、ラーメン、ポテトチップスなどを買ったほか、アルバイトをしている現役の女子大生たちにおすすめを聞いていく。さらに、澤部が「この辺で撮影されてて、役者さんとか見てないですか?」と尋ねるなど、地元民とふれ合いながら『silent』企画らしさを加えていった。

4軒目は、青森の食材が購入できる「DAITADESICA フロム青森」。澤部は「妻の母が青森出身なのでこの店を選んだ」ことを明かし、松尾は差し入れ用のリンゴなど8,050円もの買い物をした。店を出ると、ここでも聖地巡礼の人々と遭遇したカットをはさんだが、やはりそれだけで終了。「何をしている」「どんな写真を撮った」「どのスポットに行った」「どこが好きなのか」などのやり取りは一切なく、もう少し欲張ってもよかったのではないか。