テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第250回は、11日に放送されたTBS系バラエティ特番『学校中を笑わせよう!』(19:00~)をピックアップする。
番組のコンセプトは「全国の学校に笑いを届ける令和の学生応援バラエティ」。その内容は同じTBSで放送された『学校へ行こう!』を彷彿とさせるものがあり、V6が解散して同番組の復活は不可能になっただけに、何気に注目の特番だった。
■コロナ禍に苦しんだ高校生を応援
番組冒頭、今夏の甲子園大会で優勝した仙台育英・須江航監督の「高校生活っていうのは僕たち大人が過ごしてきた高校生活とは全く違うんです。青春ってすごく密なので」というコメントが紹介された。
続いて聞こえてきたのは、「そう、高校生たちは密になって謳歌するはずの青春を許されず、大人以上に我慢を強いられてきた。そんな不完全燃焼の高校生たちを笑顔に。この番組は一歩前に踏み出して殻を破ろうとする高校生たちを徹底的に応援します」というナレーション。
制作サイドは『学校へ行こう!』の後継番組ではなく、「コロナ禍に苦しめられた高校生たちを応援したい」という思いを前面に押し出した。ただこの方針は、高校生たちはもちろん、局内やスポンサーへの大義名分としてもいいが、視聴者にもコロナ禍という重い前提を背負わせる形になってしまう。「『学校へ行こう!』のような何も考えずに笑える番組のほうがよかった」という人も多いのではないか。
番組は、「悩みを持つ高校生のために芸人がオリジナル歌詞を制作して熱唱してもらう」というコーナーからスタート。ロケの舞台は栃木県の宇都宮短期大学付属高校で、全校生徒2,600人以上(1学年24組)という超マンモス校だった。
1人目の“高校生ヴォーカル”は、2年17組の巴南(はな)さん。「マスクを外したときの反応が怖くて外せず、クラスメイトの女子たちも顔を見たことがない」という悩みを抱えていた。
ここで制作サイドは画面に「マスクを外した異性を見た時にどう感じたか」というアンケート結果の円グラフを表示。その内訳は、「可愛さ・かっこよさ半減」が27.1%、「もったいない」が18.6%、「見たくなかった」が16.15%、「意外と老けてる」が16.1%、「ただただ残念」が13.4%、「その他」が8.65%と、ほぼネガティブな声で占められていた。
ただ、これは化粧品販売の会社が商品プロモーションに際してリリースしたアンケートの一部結果だけに恣意的な感が強く、ゴールデンタイムで流すのはやりすぎだろう。テレビ局に根付く悪しき習慣であり、作り手たちが「これくらいならいいだろう」と思っているのならかなり危うい。
■丁寧な後追い撮影で幸せ感が倍増
続いて再現ドラマとインタビューで、巴南さんが「男子生徒に言われたひと言がショックになったこと」「最初は顔も知らなかった海星くんとインスタのダイレクトメッセージを続けて好きになったこと」「学校でもたまに話す仲になったが、素顔見られるのが不安であること」などを紹介。
「デートしてマスクを外して食事がしたい」という純粋な気持ちをストレートに映すことで、応援せざるを得ない心境にさせた。やはり“本気の思い”は現在のテレビ番組に求められているキーワードの1つであり、その対象が高校生ならなおのことだろう。
四千頭身が歌詞を作り、歌の練習をする様子が映されたあと、VTRは本番5分前へ。巴南さんの「(こんな機会)もう人生でないですよね。一度きりの5分間」という言葉に視聴者のドキドキも募っていく。
150人超の生徒が集まる会場に彼女が現れると、割れんばかりの拍手と笑顔。この光景を見て、『学校へ行こう!』の「未成年の主張」を思い出した人は多いだろう。「私には今、好きな人がいます」と口火を切ると会場が盛り上がり、海星くんの何とも言えない表情が映し出された。このあたりの演出は「未成年の主張」とほぼ同じだ。
巴南さんが勇気を出して初めてマスクを取ると、会場から「かわいい~」という声が飛び、緊張しながらも大塚愛「さくらんぼ」の替え歌を歌い上げた。その直後、名前を呼ばれた海星くんもマスクを外し、告白は成功。巴南さんは涙を目にためながら「ありがとうございます」と語り、めでたしめでたし……と思いきや、続きがあった。
映像は巴南さんと海星くんの2ショットに切り替わり、勝利者インタビューのようなものがスタート。巴南さんが「やってよかったな。今回がなかったらずっと(マスクを)外してなかったと思うので」、海星くんが「めっちゃうれしかったです。かわいいと思います」と話した。さらに後日、付き合い始めた2人が文化祭を一緒に回る姿も映し出され、最後は「末長くお幸せに」というナレーションで終了。
後追いの撮影を丁寧に行う制作姿勢は素晴らしく、視聴者は2人の幸せを分けてもらえたような気持ちになったのではないか。エンタメの幅が広がり、数も増える中、現在のテレビ番組は、より高い没入感を与えるためにこれくらいやるべきなのかもしれない。