テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第214回は、6日に放送されたカンテレ・フジテレビ系バラエティ特番『R-1グランプリ2022』(20:00~)をピックアップする。

もはや説明不要のピン芸人日本一決定戦だが、「芸歴10年以内」という出場資格が加わった昨年は、ネタに加えて演出、審査など、さまざまな点で不満が飛び交う不本意な大会となってしまった。記念すべき20回目の今回はどうだったのか。

  • 『R-1グランプリ2022』優勝のお見送り芸人しんいち (C)カンテレ

    『R-1グランプリ2022』優勝のお見送り芸人しんいち (C)カンテレ

■『M-1』より現役バリバリの審査員

オープニングトークで、MC・霜降り明星のせいやが「昨年はバタバタしまして……」という自虐ネタを切り出していきなり笑いを誘った。さらに、相方の粗品が復活ステージでYes!アキトが勝ち抜いたことを報告。この日の午前中、すでに発表されていることを知らない視聴者にしてみれば「あっ、そうなの」という実にあっさりとした発表だった。

続いて、昨年王者・ゆりやんレトリィバァのロングインタビューがスタートした。番組本編の前枠ということで、約3分というネタ時間とほぼ同じ長さがあり、「このせいで今年も重要なシーンをカットにならないといいのだが……」と心配になってしまった。

次は陣内智則、バカリズム、小籔千豊、野田クリスタル、ハリウッドザコシショウの順で審査員を紹介。いずれも現役バリバリの5人であり、「彼らを超える1人コント、フリップ芸、漫談、モノマネなどを見せなければいけない」という意味で出場者のハードルは、『M-1グランプリ』(ABCテレビ・テレビ朝日系)より高いのかもしれない。

  • kento fukaya (C)カンテレ

1人目のkento fukayaは、フリップ芸を立体的にしたネタを披露。陣内:93点、バカリズム:84点、小籔:92点、野田:90点、ザコシ:90点で計449点を獲得し、陣内は「フリップの可能性」、バカリは「本人以外の要素が多かった」などとコメントした。昨年のネタから進化を感じさせたが、トップバッターに対してはやはり厳しい。

  • お見送り芸人しんいち (C)カンテレ

2人目のお見送り芸人しんいちは、いつも通り「好きなもの」の歌ネタ。陣内:92点、バカリ:89点、小籔:94点、野田:95点、ザコシ:93点で計463点を獲得し、野田は「普通に強い。普通にちゃんと性格悪い」、バカリは「悪意のセンスと歌い方の緩急が素晴らしい」などとコメントした。

  • Yes!アキト (C)カンテレ

3人目のYes!アキトも、いつも通り一発ギャグを連発。陣内:88点、バカリ:87点、小籔:92点、野田:90点、ザコシ:90点で計447点を獲得し、陣内は「ギャグの連発はネタとしての評価が……」、ザコシは「もうワンアイデアほしかった」などとコメントした。視聴者投票の復活ステージとは審査基準が大きく異なるだけに、決勝での結果は出づらいのかもしれない。

  • 吉住 (C)カンテレ

4人目の吉住は、芸能人の不倫に激ギレするOLの1人コント。陣内:91点、バカリ:91点、小籔:97点、野田:93点、ザコシ:91点で計463点を獲得し、小籔が「小説読んだかのよう」、バカリが「着眼点がよくて細かいところも作り込んである」などとコメントした。ようやく1人コントが登場して、ここまで見事にネタジャンルが分散している。

  • サツマカワRPG (C)カンテレ

5人目のサツマカワRPGは、「大会近いもんな」を繰り返す1人コント。陣内:90点、バカリ:88点、小籔:94点、野田:96点、ザコシ:91点で計459点を獲得し、野田は「『大会近い』はどうやってたどり着いたんだろう」、バカリは「前半は一番よかった。もう1つほしかった」などとコメントした。いかにもお笑いフリークが好きそうなネタだったが、オチ1つでファイナル進出と紙一重なのがR-1の難しいところだ。

■スケッチブックに手書きした審査員

  • ZAZY (C)カンテレ

6人目のZAZYは、フリップをモニターに変えつつ、いつものリズムネタを披露。陣内:89点、バカリ:86点、小籔:98点、野田:96点、ザコシ:95点で計464点を獲得し、バカリは「最後の歌がゴチャゴチャッとなってしまった」、ザコシは「昨年の失敗を絶対にしないようにしていた」などとコメントした。

  • 寺田寛明 (C)カンテレ

7人目の寺田寛明は、「初めて」がテーマのフリップ芸。陣内:90点、バカリ:85点、小籔:94点、野田:92点、ザコシ:90点で計451点を獲得し、バカリは「最後1~2つ爆発力のあるネタがあれば」、ザコシは「大喜利力だけじゃなくてテレビで見てる人を意識する何かがほしかった」などとコメントした。

  • 金の国 渡部おにぎり (C)カンテレ

8人目の金の国 渡部おにぎりは、トンビに連れ去られた大学生の1人コント。陣内:93点、バカリ:90点、小籔:93点、野田:94点、ザコシ:93点で計463点を獲得した。しかし、この結果を受けて、お見送り芸人しんいち、吉住、金の国 渡部おにぎりの3人が463点で並び、急きょ審査員5人による決選投票に突入。

MCの広瀬アリスが「まさかのフリップ(に名前を書き込むん)ですから」、粗品が「(しかもそのフリップは)スケッチブックですよ。劇場思い出してください」、せいやが「初めてじゃないですか? 賞レースで3組同点なんて」とたたみかけて笑いを誘った。画面表示ではなくスケッチブックに手書きさせたことで、混乱ぶりが伝わってしまったのではないか。

陣内、野田、ザコシがお見送り芸人しんいちを、バカリ、小籔が吉住を選び、ファイナル進出は、お見送り芸人しんいちに決定。しかし、なぜかその直後に金の国 渡部おにぎりへの審査員コメントを求めるという謎の構成に。陣内は「ピン芸人を次見たくなったのでしんいちを選びました」、バカリが「設定の勝利。日ごろの行いが悪かった(から選ばれなかった)」などと決選投票絡みの微妙なコメントが続いてしまった。

  • (C)カンテレ

ファイナルステージは、お見送り芸人しんいちが歌ネタ「応援するよ」、ZAZYのデジタル紙芝居を披露。どちらも2本同じタイプのネタを重ねた結果、陣内、野田、ザコシの3人に選ばれたお見送り芸人しんいちが僅差で優勝した。会場の盛り上がりはZAZYのほうが大きかったようにも見えたが、そこは賞レースだけに「審査員のジャッジが絶対」なのだろう。

だからこそ、審査員のコメントが陣内とバカリだけで切られてしまったことが悔やまれる。とりわけここまでほとんどボケることなく的確なコメントを繰り返していたザコシが何を言うのか。5人目としてどんなオチのコメントを考えていたのか。聞きたかった人は多かっただろう。