テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第201回は、11月27日に放送されたフジテレビ系バラエティ特番『ドラフトコント2021』(21:00~)をピックアップする。

オリジナリティの高いお笑い特番を連発する『土曜プレミアム』の新企画で、バイきんぐ・小峠英二、千鳥・大悟、オードリー・春日俊彰、ピース・又吉直樹、かまいたち・山内健司の5人が「一緒にコントをやりたい」と思う芸人を4人ずつドラフト指名し、1カ月後にネタバトルを開催した。

ドラフト候補芸人には、ぼる塾・あんり、しずる・池田一真、おいでやす小田、オアシズ・大久保佳代子、かが屋・加賀翔、ラランド・サーヤ、ジャングルポケット・斉藤慎二、ニューヨーク・嶋佐和也、シソンヌ・じろう、空気階段・鈴木もぐら、霜降り明星・せいや、バイきんぐ・西村瑞樹、シソンヌ・長谷川忍、丸山礼、空気階段・水川かたまり、パンサー・向井慧、さらば青春の光・森田哲矢、見取り図・盛山晋太郎、平成ノブシコブシ・吉村崇、ネルソンズ・和田まんじゅうの計20名(五十音順)。

実力者やクセ者ぞろいだけに、「誰が誰を選ぶ?」「指名重複による抽選は?」「5人編成のコントはどんなものに?」など注目ポイントが目白押しだった。

(左から)『ドラフトコント2021』キャプテンを務めた小峠英二、大悟、春日俊彰、又吉直樹、山内健司

(左から)『ドラフトコント2021』キャプテンを務めた小峠英二、大悟、春日俊彰、又吉直樹、山内健司

■先にボケを獲るかツッコミを獲るか

オープニングナレーションは、落合福嗣による「この冬、フジテレビに新たなお笑いの大会が誕生。それはユニットコントNo.1を決める戦い、ドラフトコント」「チームを率いるのは5人の人気芸人。今夜だけのために作られた新作ユニットコントで対決。お笑い力とチームワークを駆使し、頂点に輝くのは……」。お笑い力にチームワークを組み合わせる形は、確かに新しく見たことがない。

すぐにVTRはコント本番から2カ月前に飛び、ドラフト会議当日へ。しかもその日は『キングオブコント2021』(TBS系)の翌日だった。つまり、「ドラフトでは新王者になったばかりの空気階段が注目を集める」ということだろう。ちなみに、ドラフト会議のナレーターは本家のモノマネが得意な松村邦洋。あえて本物を呼ばないところがフジテレビのバラエティらしく、スタッフのうまさを感じさせられる。

1巡目で指名されたのは、小峠―シソンヌ・じろう、大悟―シソンヌ・長谷川、春日―シソンヌ・じろう、又吉―シソンヌ・じろう、山内―ぼる塾・あんり。「コントのスペシャリストであるシソンヌ・じろうが3人重複」というガチ感たっぷりのスタートになった。くじ引きの結果、「(ネタを書けない)私が最もほしい」と言っていた春日が手を挙げたが……実際の当たりクジは又吉。これは2015年のヤクルト・真中監督パロディであり、抽選で負けた小峠はしずる・池田、春日は空気階段・水川を再指名した。

2巡目は、小峠―ニューヨーク・嶋佐、大悟―見取り図・盛山、春日―ジャングルポケット・斉藤、又吉―空気階段・もぐら、山内―ジャングルポケット・斉藤。大悟は先にツッコミを2人獲り、又吉は先にボケを2人獲るという戦略の違いが面白い。斉藤は春日が獲得し、山内はネルソンズ・和田を再指名した。

3巡目は、小峠―バイきんぐ・西村、大悟―バイきんぐ・西村、春日―バイきんぐ・西村、又吉―パンサー・向井、山内―かが屋・加賀。まさかの3チーム指名を受けた西村は小峠が獲得し、大悟は霜降り明星・せいや、春日は平成ノブシコブシ・吉村を再指名した。

4巡目は、小峠―オアシズ・大久保、大悟―サーヤ・ラランド、春日―オアシズ・大久保、又吉―丸山、山内―サーヤ・ラランド。小峠が大久保、大悟がサーヤを獲得したあと、抽選で負けた春日と山内がおいでやす小田で競合する。けっきょく春日が小田を獲得し、「森田だけは嫌」と言っていた山内が残ったさらば青春の光・森田を選ぶことになってしまった。

続いてネタ順の抽選が行われ、山内、春日、小峠、大悟、又吉の順番に決定。直後、映像は1カ月後のコント本番に飛んだが、ここまでで特番全体の4分の1にあたる約30分が経過。これだけのトーク巧者がそろった以上、ドラフト会議の撮れ高はもっとあったのだろうが、バランス的にはこれが限界か。

ただ、もったいないだけに理想を言えば、完全版をTVerで無料配信。それが難しければせめてFODでの有料配信を行ってほしいところだ。手間やリスクの問題があるのは分かっているが、そこまでしなければテレビ番組はネットコンテント差別化し、収益を上げることが難しくなっている。

■レベルの高さに審査員たちが萎縮

番組はトップを飾る山内チームのネタ作りに密着。山内と森田の2人が力を合わせてネタを作り、2週間前に行われた初稽古を映したあと、本番が始まった。ネタは売れない2人組バンドをモチーフにした「スカウト」で約7分。「山内、和田、加賀、森田のコント巧者にあんりがどうツッコミを入れるか?」に注目していたが、始まってみたら全員で森田をイジるタイプのネタだった。

2番手の春日チームは、コント王者になったばかりの空気階段・水川かたまりがネタ作りを担当。超多忙の中、ギリギリで作り上げたネタは「爆弾処理」で、春日、水川、斉藤、吉村、小田の5人が、男臭さとパワーを爆発させる約9分の大作だった。

3番手の小峠チームは、小峠、池田、嶋佐の3人がネタ作りを担当。「不動産屋」は、西村、大久保という強烈なボケを生かすだけでなく、バイきんぐのおバカ、しずるの熱さ、ニューヨークの危うさを感じさせるバランスのいい約7分のネタだった。

4番手の大悟チームは、「志村けんイズムを受け継ぐ」という宣言通りの大悟ワールド。「地球の平和は俺たちが守る」は、ハゲヅラ、白塗り、白鳥ドレス、半身の映し鏡、アイドル腰元など、志村けんのオマージュネタを詰め込んだ約10分のネタだった。

最後の又吉チームは、芥川賞作家の又吉がネタ作りを担当。「10万円のバイト」は、ファンタジーとナンセンスを織り交ぜつつ、じろう、もぐら、向井、丸山の演技力を引き出した緻密な約9分のネタだった。

ただ優勝したのは、まさかのチーム春日。今田が思わず「ちょっとだけ予想外でした」とコメントしたほか、本人たちも戸惑いの顔を見せていたが、焼肉叙々苑50万円分のお食事券を獲得した。ちなみにネット上の声を拾ってみると、最も支持の声が多かったのは又吉チーム。ただ、大悟チーム、小峠チーム、山内チームを推す声も多く、それがレベルの高さやバラエティに富んだネタだったことを物語っている。

だからこそ気になったのは、ヒロミ、小池栄子、内田篤人、田中樹、朝日奈央、鷲見玲奈の6人が務めた審査員の顔ぶれ。小池が「自分なんかが一票を投じるなんておこがましい」と語っていたように、お祭りムードの華やかさ以上のガチンコムードがあり、どのチームを選ぶのかプレッシャーを感じたのだろう。

「忙しい人気芸人たちにガチンコを背負わせるのは難しい」のは分かるが、賞レースの盛り上がりを見ればそこに視聴者ニーズがあるのも間違いないところ。実現度は低いかもしれないが、本気で今回以上の熱狂を生み出したいのなら、今後はチームの人数、審査員の人選などを調整しながら、さらにガチンコムードを高めるのが近道かもしれない。