味の素社といえば、創業112年、従業員3万人以上の大企業だ。特にアミノ酸に関する高い技術を有しており、国内のみならず世界中の食文化に貢献してきた。ただ、同社のビジネスは常に順風満帆だったわけではない。特に2016年からの数年間は株価が下落し、厳しい局面を迎えていた。そんな同社を変革し、再び成長軌道に乗せたのが、同社取締役 代表執行役社長 最高経営責任者(CEO) 西井孝明氏によるパーパス経営への転換宣言。そして、取締役 代表執行役副社長であり、Chief Digital Officer(CDO)の福士博司氏が主導したDXである。
10月28日に開催されたビジネス・フォーラム事務局×TECH+フォーラム「DX Day 2021 October 探索するDX経営」では福士氏が登壇し、味の素社が取り組んできたDXのポイントについて語った。
再成長のために選んだDX
福士氏は味の素社のCDOであり、同時に社団法人CDO CLUB JAPANのラウンドテーブルメンバーでもある。これまでにアミノサイエンス部門の事業ポートフォリオを6年間で完全に転換させたほか、抗体医薬や再生医療など先進医療の関連領域において、数多くの新事業を生み出してきた。現在はCDOとして味の素社のDXを推進するほか、多くの他団体ともエコシステムを構築し、共同で社会課題の解決に取り組んでいる。
味の素社がDXに取り組み始めたきっかけは、2016年までさかのぼる。当時、海外食品事業の成長によって同社の株価も順調に成長しており、誰もがこのまま成長軌道を描いていくと疑わなかった。しかし、思惑に反して2016年から株価は下落傾向に入った。その理由を福士氏は、「過去の成功体験を繰り返してしまった」ことだと分析する。
「現状の環境や競争の変化に気づかず、安定志向で事業の縦割りを打破できなかったことが原因で、成長が止まってしまったのです」(福士氏)
そこで福士氏は再成長に向けた変革――DXに着手した。2018年後半から準備を進め、2019年には推進準備委員会を発足。DX部を設置するなど取り組みを進めた結果、落ち込んだ株価も回復し、現在では2018年時の最安値から2倍以上にまで成長したという。
なぜ福士氏はDXで成功を収められたのか。実は福士氏自身はDXに関するスペシャリストだったわけではない。味の素社にはそれまでCDOという役職自体が存在していなかったため、社内のナレッジに頼ることも難しかった。そこで福士氏は社団法人CDO CLUB JAPANの門を叩いた。そこで出会った”先輩CDO”たちに学びながら、現在に至ったというわけだ。