ガートナー ジャパンは7月12~13日、年次カンファレンス「ガートナー データ&アナリティクス サミット」をオンラインにて開催した。

「リーダーシップとスキル」をテーマにしたトラックでは、「データ・ドリブン・イノベーションを通じてデジタル・ビジネスを加速させるには」と題し、ガートナー ジャパン バイス プレジデント/アナリスト/ガートナー フェローの藤原恒夫氏が登壇。データドリブンイノベーション(DDI:Data Driven Innovation)がどのようにイノベーションのプロセスを加速するのかについて解説を繰り広げた。

デジタルイノベーションとは何か?

冒頭、藤原氏は「なぜ今、デジタルイノベーションが重要視されているのか」について言及。ガートナーの調査結果を基に、新型コロナウイルス感染症の拡大によって推進される新たな戦略的ビジネス優先事項として「デジタル化の取り組み」が最も多い回答を得たこと、デジタルイノベーションへの投資が増加傾向にあることを示した。

「デジタルイノベーションとは、デジタル技術とアプリケーションを使用してビジネス価値を創出することであり、その目的はビジネスの効率や適応力、回復力(レジリエンス)を高めること」だと藤原氏は説明する。

藤原恒夫氏

ガートナー ジャパン バイス プレジデント/アナリスト/ガートナー フェローの藤原恒夫氏

同氏によれば、このデジタルイノベーションは「最適化」と「変革」の2つに大別でき、それぞれはさらに2つに分かれるという。

デジタルイノベーション

デジタルイノベーション/出典:ガートナー(2021年7月)

これを踏まえ、組織としてどこまでを目標とするのかを決めることがデジタルイノベーションへの取り組みの最初のステップとなる。例えば、コロナ禍によって進んだリモートワークやロボットを使った業務の自動化などは、既存ビジネスの売上向上や業務効率の向上につながる取り組みだ。また、モバイルオーダーの仕組みやオンラインを利用した問い合わせ対応などは、カスタマーエクスペリエンスの改善だと言える。

「これだけでも結構効果があるので、そこでストップする組織も多数ありますが、さらに変革へと進む場合は、新たなデジタル商品/サービスを打ち出したり、ビジネスモデルを構築/提供したりすることが考えられます」

藤原氏は新たなビジネスモデルを構築した例としてAmazonを挙げ、「Amazonはかつて本屋だったが、プラットフォームを構築したことで本以外も売ることを可能にし、売る方だけでなく買う方からも収入を得られるようになった」と説明した。

このようにデジタルイノベーションへの取り組みが進むなか、データに着目する企業や組織が増えている。社会の経済活動の多くがインターネットへ移行しつつある近年、データの収集/保存が容易になり、処理コストが低下した結果、膨大な量のデータの生成/使用が現実的なものとなった。即時性があり、信頼性の高い豊富なデータが、イノベーションのアイデア生成や評価メカニズムに影響を与えていのだ。

DDIとは何か?

では、DDIとは何なのだろうか。

藤原氏は「DDIは直感的には得られない知見をデータやデータ分析から引き出して研究することによって、ビジネス上の課題を可視化し、解決すること。つまり、DDIは、データから導き出される知見と分析をイノベーションプロセスに適用するものであり、通常はアイデア生成に始まり、アイデアの評価、ビジネス価値の創造で終わる」と説明する。

そのプロセスは、アイデアの生成から評価、ビジネス価値の創造まで3つのステップから成る。アイデアが価値創造までつながらないのだとすれば、その過程で何らかの障壁があるからだ。

藤原氏曰く、「それらの障壁を克服するには、データを活用してアイデアの生成ステップと評価ステップを改善する必要がある」という。

アイデアの生成ステップを改善するには、まずビジネス上の課題の仮説を立てる。仮説としては、戦略との整合性が不十分なことや、マインド醸成/認識が不足する組織文化の問題などが考えられる。そしてその立証に必要なデータを集め、イノベーション機会に関する分析モデルを試作する。立証されればそこで完了し、そうでなければ分析に基づいてまた新たな仮説を立てる。

一方、アイデアの採用率が低いといった評価ステップを改善するには、データと洞察によってイノベーション機会を選択し、さまざまなイベントやシナリオを予測して実現可能性を評価する。その評価が良ければそのまま完了し、必要に応じてアイデアを修正してイベントやシナリオを予測する工程に戻る。