移り変わりの激しいビジネス市場において、的確にニーズをつかみ、次の一手を打っていく上で、企業内に蓄積されたデータをいかに有効活用できるかが大きなカギを握ることは言うまでもない。
しかし、そのメインプレイヤーとなるAI人材/データ分析人材は、慢性的に不足しているのが実情だ。そうした課題の解決に一役買っているのが、SIGNATE社が運営し、およそ50,000名(2021年6月時点)のAI/データ分析人材を抱えるデータサイエンスプラットフォーム「SIGNATE」である。
SIGNATEは、AI開発やデータ分析のスキルアップをサポートする「Quest」、データサイエンスコンペティションサービス「Competition」、転職スカウトサービス「Delta」、および学生向け就活スカウトサービス「Campus」の主に4つで構成され、Questで学んだスキルをCompetitionで試し、積み重ねた実績を基にCampusでキャリアのスタートダッシュを決めたり、Deltaでキャリアアップ(チェンジ)したり、というエコシステムを形成している。
なかでも目を引くのがCompetitionだ。SIGNATE Competitionは、サイト上に企業が「AIで解決したい課題」を公開し、参加者が腕を競い合う新しいAI開発の”場”として注目を集めており、近年ではこの場をうまく活用してAI開発以外の目的で利用する企業も登場している。
SIGNATE Competitionは、企業とユーザーにいかなる価値をもたらすのか。SIGNATE社 Business Group ビジネスプロデューサーを務める糸賀拓馬氏にお話を伺った。
AI人材の真価を引き出し、正しく評価するために
企業が公開したビジネス課題に対して、参加者がAIモデルを作成し、出力した予測結果を投稿するSIGNATE Competition。優秀者には企業から賞金/賞品が授与されるほか、作成したAIモデルはブラッシュアップの上、実際に企業のシステムに採用されることもあるという仕組みになっている。
こうしたシステム開発案件のコンペ自体はよくある話だが、SIGNATE Competitionのようにオープンイノベーションで参加者を募るケースは珍しい。海外ならば、Kaggleをはじめさまざまなデータサイエンスコンペティションサイトが存在するものの、国内ではSIGNATE Competition以外に数社を数えるのみだ。
「SIGNATEの意義はAI人材をエンパワーすること」だと糸賀氏は説明する。
「個人的な想いではありますが、世の中のAIエンジニアやデータサイエンティストはもっと評価されるべき人たちだと思っています。彼らはスポーツ選手と同様に、他者にはないスキルを持った人たちですから」(糸賀氏)
Questでスキルを磨き、Competitionで実力を示し、そこで得た実績を武器にCampusやDeltaでキャリアに繋げる――これがSIGNATE社の考える”AI人材をエンパワーする”サイクルというわけだ。
一方、SIGNATE Competition上に案件(課題)を掲載する企業側にもさまざまなメリットがある。まず、自社の課題を高いレベルで解決できるという点だ。
SIGNATEの登録会員数は約50,000名。案件ごとに参加(応募)者数は多少増減するが、毎回数百人以上のデータサイエンティストやエンジニアが参加し、それぞれが考え抜いたAIモデルの精度を競い合うという。1人が複数回投稿することも可能なので、時には数千件の投稿が集まることもある。一般的な開発コンペで、それだけの数のソリューションを集めるのは至難の業だろう。
思いがけない副次的効果
また、SIGNATE Competitionを活用することは企業にとって多くの副次的効果ももたらしている。例えば、JR西日本が実施した「着雪量予測」コンペを見てみよう。
JR西日本は、新幹線の台車部に付着する雪を落とすのにかかるコストを削減するため、過去の気象条件/走行条件と着雪量のデータを分析し、着雪量を定量的に予測するコンペを実施した。473名から2,114件の投稿が集まったのだが、何と上位にJR西日本の社員が2名含まれていたのだ。1人は自動改札機のメンテナンス部署に所属しており、もう1名は新幹線の運転士。両者ともに趣味の一環としての応募だったが、その後データアナリティクスの部署に異動し、活躍しているという。期せずして社内のAI人材の発掘につながったというわけだ。
また、アップル引越センターの「引越し需要予測」コンペは、そもそも引越しの需要量を高精度に予測することで、生産性の向上や価格設定の最適化を図るために実施された。結果として、3,492件の投稿から優れた成果物が得られたのだが、メリットはそれだけに留まらなかった。コンペを通じて「先進的な取り組みをしている引越し会社がある」というプラスの広報効果が得られたのだ。
自社の課題を解決できるだけでなく、こういった副次的な効果が得られるのも、SIGNATE Competitionを活用して広くAIモデルを募るメリットと言える。