O2O(Online to Offline)に始まり、無人レジやウォークスルー決済、来店客の動線把握など、DXが進む小売/流通業界。誰の目にも明らかな変革期を迎え、業界のリーダー達は今、どのような戦略を描いているのだろうか。

2月12日に開催されたリテールガイド×マイナビニュース共催セミナー「リテールDX 2021 - どのようにデジタル活用して『企業改革を進める』べきか?」では、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推し進めるカインズの代表取締役社長 高家正行氏が、小売流通業界向け情報サイト『リテールガイド』編集長/リテール総合研究所 代表取締役 竹下浩一郎氏を聞き手に、自社の取り組みについて紹介した。

竹下氏、高家氏

左から、小売流通業界向け情報サイト『リテールガイド』編集長/リテール総合研究所 代表取締役 竹下浩一郎氏、カインズ 代表取締役社長 高家正行氏

イノベーションに挑戦し続けてきたカインズ

ホームセンター市場は、ここ10年ほど横ばいの状況が続く。店舗数は増加傾向にある一方で、店舗単位面積当たりの売上は右肩下がり。販売効率は低下傾向にある。そうしたなかでも、成長を続けているのがカインズだ。いせや(現・ベイシア)のホームセンター部門が独立するかたちで1989年に設立して以来、2019年度にはホームセンター業界の売上高トップの地位を獲得するなど、業界を牽引してきた。

カインズの成長の原動力はどこにあるのだろうか。高家氏は「ひとことで言えば、イノベーションに挑戦し続けてきたことが大きい」とした上で、次のように説明する。

「設立直後の時期は、多店舗展開と、ナショナルブランド(NB)を外部から調達して低価格で販売する仕入れ型モデルを軸に成長を続けてきました。しかし、2007年にカインズはSPA(製造小売り)宣言をして、プライベートブランド(PB)の商品を強化していく方向へと舵を切りました。他社に先駆けてSPA化し、一足早くオリジナル商品の開発に取り組んできたことが、今のカインズの成長につながっています」(高家氏)

成功体験を捨て、思考パターンをリセットする

しかし、現在のホームセンター業界の構造や状況を考えると、カインズは新たな成長の姿を描いていかなければならない時期を迎えている。そこで同社は、2019年3月から「PROJECT KINDNESS」と銘打ち、次世代のカインズを創出していく取り組みをスタート。「業績が良いときにこそ変革を仕掛けなければならない」という考えの下、高家氏は経営方針発表会で「カインズは成功体験を持っているが、大きく変わるためには、その成功体験を捨てなければならない」と呼びかけたという。

小売業界には、店舗や商品、担当者など各領域での連続した改善の積み上げで業績を伸ばすというカルチャーがあるが、カインズはそこから脱却し、「軸」「ストーリー」を設定し、ゴールから逆算して物事に取り組んでいく文化へと変わっていくことを決めた。また、リスクを回避するという従来の発想から、リスクを取って挑戦する姿勢への転換も進めている。

「これまでの思考パターンをいったん、リセットすることが重要。変革はそう簡単にできることではない。投資をして効果が現れるまでには時間が掛かる。一時的に利益を減らしてでも先行投資をして、収益性の高い会社になっていこうと決意した」(高家氏)

これにより、PROJECT KINDNESSの1年目であった2019年度は前年比減益となったが、2年目となる2020年度には、コロナ禍においても増益を実現できたという。