長引くコロナ禍により、ショッピングセンターは否応なしに変化を迫られている。これまでのように顧客が来店するのを待ち、商品と接客のみで価値を提供する時代は終わりを告げたのだ。
そんななか、リアルとデジタルを融合し、データを活用した新たな取り組みを行っているのがPARCOである。7月9日に開催された「マイナビニュースフォーラム2020 for データ活用」にパルコ 執行役員 CRM推進部兼デジタル推進部担当/パルコデジタルマーケティング 取締役 林直孝氏が登壇。同社のDXを牽引する立場からウィズコロナ時代におけるショッピングセンターの在り方とPARCOの取り組みについて語った。
デジタルにリアルが包含される時代の到来
PARCOが日本を代表するショッピングセンターの一つであることは、もはや言うまでもないだろう。PARCOの開発/運営を行うパルコでは、ZERO GATEや沖縄のPARCO CITYなど、全国にさまざまな商業施設を展開している。
PARCOのようなショッピングセンターの特徴は何だろうか。一つには「顧客の多くが非計画購買層」であることが挙げられる。つまり、欲しいものがあらかじめ決まっていない層である。
顧客は多くのブランドやコンテンツとのセレンディピティ(偶然の出会い)を求めてPARCOを訪れる。そして、店舗スタッフという”信頼できる他人”に接客を通じて背中を押してもらうことを期待しているのだ。「それこそが1つの館内に多くのテナントを有するショッピングセンターの特徴であり、路面店との違い」だと林氏は強調する。
一方で、2020年はそうしたリアル店舗の役割が大きく揺らいだ年でもあった。コロナ禍の影響でPARCOは4月から約2カ月間施設を閉鎖。当然のことながら出店テナントにとっても厳しい状況が続いた。
そうしたなかで林氏は、コロナ禍以前から進めていた「デジタル化」の必要性を改めて強く感じたという。キーワードは書籍『アフターデジタル』(発行:日経BP)でも提示されている「OMO(Online Merges with Offline)」という言葉である。すなわち「オフラインのない時代」だ。
これまで、デジタルとリアルは別々に存在し、その一部が重なっているような状態だった。しかし、これからはリアルはデジタルのなかに完全に包含される時代がくるという。
そんなアフターデジタル時代においてショッピングはどう変わるのか。
「ビフォーデジタル時代は、来店されたお客様に対して、商品と接客でのみ価値を提供していました。アフターデジタル時代は、それに加えて来店前にもデジタル接点をつくり、来店中もスマホなどデジタルデバイスを通じて体験的な価値を提供し、来店後もデジタル接点を通して継続的な関係構築を行うことになるでしょう」
顧客との接点について、林氏は「タッチ」という言葉を使って補足する。
「ショッピングセンターという場所を『ロータッチ』だとすると、その上に『接客』というハイタッチがあります。今後はロータッチのさらに下にデジタル接点という”テックタッチ”をつくることで、お客様一人一人とブランドの接触頻度を高めていかなければなりません」
そこで生まれたコンセプトが、パルコが2013年に掲げた「24時間PARCO」である。これは、テナントショップスタッフと顧客が、いつでもどこでもコミュニケーション可能なオムニチャネルプラットフォームを提供しようというものだ。
Web上の施策として、2014年にはECサイト「カエルパルコ(現:PARCO ONLINE STORE)」を開設し、続いて公式スマートフォンアプリ「POCKET PARCO」をリリース。アプリユーザーの行動履歴分析により、さらに顧客の理解が進んだという。
こうしたデジタル化への取り組みは、コロナ禍においても大きな役割を果たした。
政府が発令した緊急事態宣言を受け、PARCOは4月から約2カ月間休業し、取扱高は8割減と大きく減少した。だが、行動範囲が限られた状況下でも積極的にPARCOを利用したのがアプリユーザーだったのだ。コロナ禍以前の通常期にアプリを日常的に使用しているアクティブユーザーは、非アクティブユーザーに比べ休業期間中も一部の郊外型店舗で営業中だった食品フロアで買い物を行う確率が2倍に上ったという。これはアプリを通して顧客のロイヤリティが高まり、PARCOのファンになってくれたからだと林氏は分析する。