働き方改革に取り組みながらも、なかなか成果が出ない企業は多い。その理由はどこにあるのか。

ヒントになるのがカゴメの取り組みだ。改革をリードする常務執行役員CHO(最高人事責任者)の有沢正人氏は、同社の取り組みを”生き方改革”と名付け、社員と会社が共に成長していくビジョンを描いている。

真の働き方改革は、どのように進めていくべきなのか。6月10日に開催された「マイナビニュースフォーラム 働き方改革 Day 2020 Jun. 変化する社会で躍進できる組織へ」に登壇した有沢氏は、カゴメの取り組みを率直に語った。

必要なのは「働き方改革×暮らし方改革」

有沢氏はあさひ銀行(現:りそな銀行)やHOYA、AIU保険(現:AIG損害保険)で人事に携わり、2012年、カゴメに入社。現在は常務執行役員CHO兼、全世界におけるカゴメの常務執行役員CHO(最高人事責任者)として辣腕を振るう人物だ。

有沢正人氏

カゴメ 常務執行役員CHO(最高人事責任者)有沢正人氏

講演冒頭、有沢氏は働き方改革という言葉について「会社側の視点での言葉」だと指摘。従業員視点での「暮らし方改革」という言葉を提示した上で、2つを組み合わせた「生き方改革」こそが目指すべき改革であると強調した。

では、カゴメが目指す生き方改革とはどんなものなのか。そして、実現に向けてどのような施策を実施しているのか。

有沢氏によると、生き方改革というビジョンの達成には「ソフト面」と「ハード面」の両方が必要だという。ソフトとは「相互理解/尊重の土壌づくり」であり、ハードとは「制度/仕組みの整備」を指す。

例えば、働き方に対する従業員のマインドを改革したいのであれば、それを受け止めるために企業が働きやすい制度の導入や環境整備などの仕組みづくりを行う必要があるということだ。

大事なのは「パフォーマンスをどれだけ出せるか」

個人の価値観が多様化するなかで、キャリアへの考え方も十人十色になってきた。有沢氏が生き方改革の実践において重視しているのは、「柔軟に選択できる働き方のオプションを多く持つことで、一人一人が自分のキャリアを自分で決められるようになる」ことだという。

いつ、どこで、どれくらい働くのか。自分自身のキャリアをどうしていくのか。「それらを決めるのは社員自身であり、社員が選んだ生き方を可能な限り尊重するために企業は仕組みを整備しておかなければならない」と有沢氏は力説する。

こうした考え方に基づき、カゴメではいくつかの取り組みを進めている。

まず、総労働時間の見える化だ。同社はスケジューラの活用と勤怠システムとの連動により、社員一人一人の総労働時間を可視化。残業時間も自動的に計算され、残業しすぎている社員には注意喚起するシステムが構築されている。

また、工場所属を除く全従業員をコアタイムなしのスーパーフレックス勤務とするなど、柔軟な勤務制度を整えた。従業員アンケートでは、この制度を98%が支持していることから、今後も継続する予定だ。

退職者の退職理由にも着目した。「配偶者の転勤についていく」ことが最大の退職理由だったことから、カゴメでは「地域カード」システムを導入。これは「一定期間勤務地を固定して”動かない”」選択肢と「希望勤務地へ転勤する”動ける”」選択肢を社員自ら決めることができる制度である。

地域カードを使うと、少なくとも3年間は希望が維持され、各カードは2回まで利用できる。すなわち、12年間は自身が希望する勤務地で働けるということだ。

「自分が働く場所は自分で決められるべきです。カゴメでは部長クラスでもこの権利を行使する人が多くいます」(有沢氏)

テレワークをサポートする仕組みも整えている。工場所属を除く全従業員に対して勤務場所を会社だけに限定せず、自宅はもちろん、情報セキュリティポリシーを遵守できるなら自宅以外も可能とするオプションを導入しており、勤務時間の分割や隙間時間での業務も可としている。

「どこで仕事をするかは関係ありません。大事なのはパフォーマンスをどれだけ出せるかです」(有沢氏)

ただし、これらの「自由な働き方」オプションはどうしても工場所属の社員が対象外になってしまう。有沢氏はその点についても触れ、「工場だけの休暇制度を設けたり、海外拠点では週休3日案も考えている」と説明。職種的にテレワークができる社員とできない社員の格差をなるべくなくしていくとした。