ITRは10月3日、新宿・京王プラザホテルにて年次イベント「IT Trend 2019」を開催した。その基調講演には、ITR 取締役/シニア・アナリストの舘野真人氏が登壇。「デジタル時代への転換期の今こそ、求められる人材像とマインドセット」というテーマの下、デジタル時代に向けてIT人材が備えるべきマインドセットのあり方について提言を行った。

今求められる真の”デジタル化”とは?

「昨今のテクノロジーの進化は激しいが、テクノロジーから価値を引き出す人もまた、意識やものの考え方、価値観など、新しい時代に合わせた変革を遂げる必要があるのではないか」──冒頭で舘野氏は今回の講演の根底となる問題を提示。その上で、「そもそもデジタル化の真の意義は何か」というところから語り始めた。

時代の変遷を大きく大きく捉えると、現在は、18世紀から続いてきた「工業化社会」から、新たな「デジタル化社会」へと確実にシフトしている。大量生産と自由貿易に基づく物質経済から、ITとデータによる経験/体験に基づく価値経済へと、産業構造がシフトしているのだ。これに伴い、競争力の源泉も工業資源や労働力からデータへ、人々の生活圏は都市圏からデジタル空間へと移り変わっていると言える。

「そして重視される価値観もまた、かつての勤勉さや効率性から、創造性や独創性へと大きく変わりました。つまりデジタル化社会では、これまでの工業化社会とは異なる価値観や考え方が必要になってくるでしょう」(舘野氏)

ここで舘野氏は、「デジタル化」にも大きく2つの異なるニュアンスがあるとして注意を促した。それは、既存のアナログデータをデジタルデータに変換する”デジタイゼーション(Digitization)”と、デジタル技術によって社会/産業/企業活動に変革をもたらす”デジタライゼーション(Digitalization)”の2つである。

「どちらも日本語に訳せば『デジタル化』だが、今日求められているデジタル化は『デジタライゼーション』である」と同氏は強調した。

ITR 取締役/シニア・アナリストの舘野真人氏

このデジタライゼーションにおいて避けて通れない課題が、「人とテクノロジーをどうやって融合させていくか」という点だ。真のデジタライゼーションを実現する上では、テクノロジーの進歩に加えて、そうしたテクノロジーを受け止め、自らの生活や業務に取り入れることで価値を引き出せるような「人」の存在が不可欠となってくる。

しかしながら、ITRが今年行ったIT投資動向調査によると、経営戦略のなかでデジタルビジネスのビジョンや方針についてしっかりと位置づけられている企業の割合は25%しかないのが現実だ。

「デジタル変革を阻害しているのは、技術的な問題よりもむしろ人の意識の問題ではないだろうか。まだまだデジタルビジネスを”他人事”と捉えているように見受けられる」と舘野氏は懸念を示した。

デジタル化の課題には、大きく外的要因と内的要因が存在する。まず外的要因については、IoTに代表されるように、さまざまなモノがネットにつながることで、何か問題が生じた際にその原因がどこにあるのかわかりにくくなるといった不確実性の増大や、自動化の進展に伴う新しい組織体制など人々の役割の見直し、技術革新のスピード増に起因した利用技術の短命化やツールの氾濫、情報量の肥大化に対する人の認知の限界、などが挙げられる。

一方の内的要因としては、情報量が爆発的に増加することで、組織内で情報がサイロ化してしまい共有しにくくなるといった課題が生じてくる。これにより、適切な意思決定が阻害されてしまう恐れがあるのだ。

「こうしたデジタル化の課題を想定してあらかじめ対処しておくことも、デジタル時代においては大切なのではないでしょうか」(舘野氏)

だが、人の意識は緩やかに変化するものであるのに対し、テクノロジーは指数関数的に進化する。そのため、テクノロジーの目まぐるしい進化に人がどうやって対応していくかが課題となる。

「例えば、AIなども以前は使いものにならなかったが、ここに来て一気に実用化が進むほどの急速な進化を遂げた。また、今まさにテクノロジーの進化に人が対応するフェーズに入ったのがディープラーニングの分野だと言える。こうした大きな転換期に差し掛かった時に、人はどのように考えるべきか──少なくとも、過去の成功体験にとらわれずに、新しい価値観のなかで技術を活用していくマインドが必要になってくる」と舘野氏は見解を示した。