IT調達において、クラウドはもはや避けられない選択肢である。だが、オンプレミスの場合とは異なる契約上の確認ポイントが把握できていないケースが少なくない。ガートナー ジャパン バイス プレジデント, アナリスト 海老名剛氏は、8月30日に行われた「ガートナー ITソーシング、プロキュアメント、ベンダー & アセット・マネジメント サミット 2019」に登壇し、クラウドベンダーとの契約に臨む際の交渉ポイントについて解説した。

ガートナー ジャパン バイス プレジデント, アナリスト 海老名剛氏

求められる「クラウド契約での交渉力」

クラウドソフトウエア市場ではIaaSが先行しているが、SaaSベンダーも「クラウドファースト」戦略を強力に進めている。2019年5月にガートナーが実施した調査結果によれば、約7割の国内企業がオンプレミス環境でビジネスアプリケーションを利用しているが、その内の6割がベンダーからクラウドへの契約変更を打診されたことがあるとわかった。

主要ベンダーは、ユーザー企業が常に最新の機能を使えるよう、オンプレミスよりもクラウドにより多くのリソースを投入している。ユーザー企業がインフラのみのクラウド化に留めたいと考えていたとしても、ビジネスアプリケーションのクラウドへの移行も積極的に検討するべき場面が増えてくるであろう。

IT部門にとってクラウドの契約交渉力がますます重要になるなか、海老名氏は「ベンダーと交渉する前の準備には3カ月を見込んでおく必要がある」と説く。さらに、ベンダーとの契約交渉には、短くて3カ月、大規模導入の場合は6カ月を要するのだという。

契約交渉のモデルスケジュール/出典:ガートナー(2019年8月)

準備期間で行う”足固め”

事前準備の期間をしっかり確保するのは、ベンダーと対等な話し合いをするための交渉材料を集めることが必要になるからだ。海老名氏は事前準備で押さえておきたいポイントとして、次の4点を挙げた。

現在、および将来の需要をあらかじめ把握する

クラウドとは言っても、何から何まで本社のIT部門が管理することは難しい。だが、少なくとも全社的なニーズがあり、全社の業務プロセスに影響があるERP、HCM、SCM、CRM、Office製品などを対象に、本当に必要なユーザー数がどのぐらいかを確認するべきだ。また、未使用のソフトウエアの棚卸しを行い、新しい契約で無駄を作らず、良い条件を引き出す材料にしたい。

クラウドベンダーの競合を知る

「SAPやOracleの製品を使うことが既定路線の場合でも、それ以外の選択肢がないかどうかを検証するべき」だと海老名氏は主張する。例えば、HCMのWorkday、CRMであればSalesforceやAdobeも候補になり得る。そうしたベンダーの提案を受けることは、交渉材料の獲得に役立つという。

IT部門を通す承認プロセスを確立する

海外拠点などで本社のIT部門が関与しないまま、契約が結ばれるケースがある。こうしたケースを頭ごなしに否定するのではなく、使ってみたいというアイデアが現場から出てきたときに、IT部門に相談が来るような関係性を作っておきたい。

ベンダーの決算期に契約交渉を開始するタイミングを合わせる

実際に交渉に入る時期を決算期に合わせることで、有利な条件を引き出せる可能性が高まる。日本は3月末の会社がほとんどだが、米国のクラウドベンダーの決算期はバラバラのことが多い。全てのベンダーの交渉をQ4に合わせることは難しいが、少なくとも四半期決算に合わせることはできるだろう。