一般に、TV業界における広告出稿の基準となるのは視聴率だ。その視聴者像はM1層(20歳~34歳の男性)やF1層(20歳~34歳の女性)といった大まかなデモグラフィックでセグメントされてはいるものの、より詳細なデータを取得することは難しい。
そんな状況に風穴を開けようとしているのが、CCCマーケティングである。同社が展開する共通ポイントカード「Tカード」の会員の購買データに加え、TV視聴データも保有している同社は、より詳細な視聴者像を明らかにすることができるという。
7月31日に開催された「マイナビニュースフォーラム2019 Summer for データ活用 ~成功事例から学ぶデータ活用~」では、CCCマーケティングでTVデータ企画ユニット ユニットリーダを務める橋本直久氏が登壇。「Tカードのデータだからできる、テレビメディア視聴者像の見える化~視聴率だけでは見えない”あの番組の本当の視聴者像”をお見せします~」と題し、データを活用した最新のマーケティング事例について語った。
より適切な対象に情報を届けるには?
橋本氏は講演冒頭、2019年夏のTVドラマ5作品と、その視聴率ランキングを提示した。視聴率は1位から順に「ノーサイド・ゲーム」「監察医 朝顔」「偽装不倫」「Heaven? ~ご苦楽レストラン~」「ルパンの娘」となる。
通常、「視聴率」とは、ビデオリサーチ社が従来どおりの手法で調査したもの。ある地区のTV所有世帯から一部の世帯を抽出し、そのうち何%が視聴したのかという数字から全体を推定するという方法である。
この方法では、ざっくりとどれくらいの人数に視聴されたのかはわかっても、個々の視聴者の特性まではつかめない。例えば、ある企業が新製品を宣伝するためにドラマの間にCMを打つとする。なるべく多くの人にCMを見てもらうことも重要だが、仮に視聴率が高くても全員が自社の製品に興味を持っている層とは限らない。視聴率は低くても、「自社製品に興味のある人の割合」が高い番組があるなら、そちらにCMを打ったほうが効果的だろう。
「昭和や平成の初期は皆のライフスタイルが似ていたので、デモグラマーケティングも効果的でした。しかし、インターネットやスマホの登場でライフスタイルは多様化しました。もう、M1~F3の6種類に当てはめるのは無理があります」
これまでは調査方法の都合上、そうした個々の視聴者の行動まで分析することは難しかった。デモグラフィックデータで基本的な属性に分けることはできるが、それも年齢と性別によるM1~F3までの6分類が限界。普段、どんなものを食べ、飲み、生活しているかといったところまではわからなかったのである。
しかし、「CCCマーケティングならそれが可能」だと橋本氏は胸を張る。
その理由は、同社がT会員6950万人※の購買データと、その会員情報に紐づく全国24万人※のTV視聴データを保有しているからだ。つまり、「日々、どんな行動(どんな買い物)をしている人がどんな番組を見ているのか」というデータを23万人分捕捉できるのである。
Tカードで取得できるのは、「性別」や「年齢」、「居住地」といった基本属性データに加え、その人が「いつ」「どこで」「何を」「どのくらい」買ったのかという購買データである。
さらに、全国でTポイントを貯めたり使ったりできる店の数は191社、約106万店舗※ある。なかにはウエルシアやファミリーマート、ガストのような全国チェーンもあり、T会員が年間に買う品数は約65億アイテムにも上る。それだけの購買ボリュームがあるから、「ほとんどの製品に対して統計的に信頼できる母数で分析を行うことができる」(橋本氏)というわけだ。
例として、冒頭のドラマ視聴率ランキングと、ビール会社の商品の組み合わせを見てみよう。CCCマーケティングが捕捉するTV視聴データによる、ある期間の視聴率ランキングは、以下のように並んだ。
2位「監察医 朝顔」
3位「偽装不倫」
4位「Heaven?~ご苦楽レストラン~」
5位「ルパンの娘」
ただし、「キリンのどごし生」を多く購入している顧客に限定して視聴データを測定すると下記のようになった。
2位「偽装不倫」
3位「監察医 朝顔」
4位「Heaven?~ご苦楽レストラン~」
5位「ルパンの娘」
2位と3位は入れ替わったが、比較的ビデオリサーチ調べに近い結果となる。しかし、これが「クリアアサヒ」を好む顧客だと次のように激変する。
2位「Heaven? ~ご苦楽レストラン~」
3位「監察医 朝顔」
4位「ルパンの娘」
5位「ノーサイド・ゲーム」
視聴率1位だった「ノーサイド・ゲーム」は何と5位。その他の順位も入れ替わっており、3位だった「偽装不倫」と4位の「Heaven? ~ご苦楽レストラン~」がトップ2という結果になる。
今後、どんな番組にCMを打つのかを考えるにあたり、これは非常に重要なデータだ。にもかかわらず、従来の視聴率調査では見えていなかった点でもある。
※ いずれも2019年6月末時点での数字。