日本の労働生産性の低さが指摘されて久しい。日本生産性本部が2018年12月に公表した労働生産性の国際比較によると、日本の時間当たり労働生産性は47.5ドルで、先進7カ国では最も低い水準だ。

生産性向上の解決手段として注目されているのが、RPA(Robotic Process Automation)である。これまでホワイトカラーが行っていた定型業務を、ソフトウエアロボットで自動化するものだ。日本では長時間労働を抑制する「働き方改革」の一環として、RPAを導入する企業が増加している。

「RPAはホワイトカラーの単純作業を自動化するものと捉えているのであれば、それは間違いです。RPAに求められているのは会社組織全体の作業を自動化する役割です」

こう語るのはRPAベンダー大手である英Blue Prismの共同創立者で最高技術責任者(CTO)を務めるDavid Moss(デビッド・モス)氏だ。RPAという言葉が普及する前から、金融機関の定型業務自動化を支援していた同社。その経験からモス氏は、「デスクトップの自動化と、業務プロセス全体の自動化はまったく別物です」と主張する。

Blue Prismは現在、AI(人工知能)やML(マシンラーニング)などを活用し、これまで定型業務が主だったRPAの適用範囲を物流やインフラ整備などの分野にも拡張する取り組みを行っている。2018年末には「Blue Prism AI研究所」を設立し、1億ポンド(約148億円)の資金を調達した。

AIやMLを組み込むことでRPAはどのように進化するのか――。モス氏に話を聞いた。

英国Blue Prismの共同創立者で最高技術責任者(CTO)を務めるDavid Moss(デビッド・モス)氏

自動化における「個」と「全」の違い

――Blue Primでは「デスクトップの単純作業の自動化」と「組織全体の作業の自動化」は別物だと主張しています。この違いは何でしょうか。「作業時間の短縮」という意味では、両者とも労働者にとってメリットだと思うのですが……。

モス氏:「これまで人がやっていた作業を自動化する」という意味では、両者は同じです。しかし、デスクトップ(PC)の作業を自動化するのは「R”D”A(Robotic Desktop Automation)」であり、業務プロセス全体の自動化でありません。将来的に企業がスケールアップするときに、RDAでは限界があるのです。

自動化の歴史を振り返ってみてください。製造現場はオフィスよりも自動化が進んでいます。例えば、トヨタやホンダといった自動車メーカーの生産ラインでは、多くの作業が自動化されていますが、個々の組み立て作業を単に自動化しているわけではありません。(自動車の)ボディの組み立て段階から最後の検査まで、「エンドツーエンドで効率的に稼働する生産ラインを構築する」という視点に立脚し、製造プロセス全体をデザインした上で自動化しています。

オフィスでも同じことが言えるでしょう。つまり、個人のデスクトップ作業を自動化したところで、その効果は限定的なのです。さらに、組織変更や新規部門の設立などで全体の業務プロセスに変更があれば、デスクトップの自動化(プログラム)は使えなくなるのです。