ガートナー ジャパンは11月12日~14日、年次カンファレンス「Gartner Symposium/ITxpo 2018」を開催した。本稿では、3日目に行われたマネージング パートナー(ガートナー コンサルティング)上杉優介氏による講演「デジタル時代のIT組織変革」の内容をレポートする。

2つの側面で考える「デジタル化」

上杉氏は講演の冒頭、デジタル化の現状について「92%」「47%」「2%」という3つの数字を挙げた。

これらの数字はガートナーの調査「CIOサーベイ(2018年3月)」における日本企業の回答(n=97)から導いたもので、92%はデジタル化に取り組んでいる国内企業の割合、47%は「デジタルチームを設置している国内企業の割合」、そして、2%が「デジタル化の成果を刈り取りできている国内企業の割合」となる。

マネージング パートナー(ガートナー コンサルティング)上杉優介氏

これを示した上杉氏は、「ほとんど全ての企業がデジタル化に取り組んでいて、体制も整備しています。しかし、その成果を得られている企業は非常に少ないということです。なぜこうしたことが起こるのか。『デジタルテクノロジーを活用するためにすべきこと』『IT部門が担うべき役割』『ITリーダーが変革をリードするために重要なことはなにか』。この3つを検討してみたいと思います」と論点を整理した。

まず、デジタルテクノロジーについては、いわゆる「破壊的テクノロジー」がどう進化してきたか、現在どのような影響を企業にもたらしているかを解説した。今日のクラウドという形態が登場したのは2004年頃からだが、そこから急速にテクノロジーの進化は進んだ。具体的には、モバイル、ソーシャル、ビッグデータなどが挙げられる。それから2018年までに3Dプリンティング、AR/VR、IoT、スマートマシン(AI)が広がり、今後もロボット、ブロックチェーンなどの普及が控えている。

企業に対する影響として典型的なものとして、上杉氏はiPhoneを挙げる。iPhoneの登場によって写真の楽しみ方が広がるなか、1996年に時価総額280億ドルだったコダックは6年後に破産。その一方でインスタグラムの時価総額は2012年に10億ドルに到達した。国内企業の多くもそうした「破壊」に脅威を感じ、「皆デジタルと言っているが、うちは?」「AIで何かできるのでは?」「RPAを使ってコスト効率化しよう」といった要請が出てきた。なかには誤解や混乱もあるだろう。

上杉氏が提案するのは、デジタル化を2つの側面から捉えることだ。テクノロジーのビジネス活用には、「最適化(Digital Optimization)」と「変革(Digital Business Transformation)」がある。それを踏まえて「デジタル戦略(Digital Business Strategy)」を実行していくことが重要というわけだ。

「デジタルオプティマイゼーション(最適化)は、ビジネスモデルを変えずに、デジタルビジネスの技術やアプローチによって、ビジネスを向上させること。デジタルビジネストランスフォーメーション(変革)は、これまでに実施していなかったビジネスモデルで、新しい収益機会、製品、サービス、さらには新しいビジネスユニットを創造すること。調査によると、3分の1の取り組みは最適化のみとなっていて、長期的に変革に取り組んでいかないと、デジタルビジネスへの移行は進みません」(上杉氏)

ではなぜ、冒頭でも触れたようにデジタル化は進まないのか。そこでIT部門はどんな役割を担っていく必要があるのか。上杉氏は「デジタル化を次の段階にドライブしていく際、IT部門が直面する課題が2つあります」と指摘する。新製品やサービス/業務についてデジタル化に取り組むと、その次のステップとして、データ蓄積や分析、アプリデプロイのための基盤をつくる必要が出てくる。また、その基盤に基幹システムをつないで、データの価値や顧客の体験価値を高めていく必要がある。

上杉氏は「『モード1』と『モード2』という2つのITシステムを連携させ、運営していく必要があります。1つ目の課題は、そうした取り組みを推進するための組織/人材の整備をどう進めるかです。また、2つ目の課題は、デジタル化を受け入れるシステムの整備をどう進めるかです」と提起し、2つの課題に対するアプローチを解説していった。

デジタル化推進時に直面する2つの課題/出典:ガートナー(2018年11月)