ガートナー ジャパンは11月12日~14日、「Gartner Symposium/ITxpo 2018」を都内にて開催した。本稿では、Sansan デジタル戦略統括室 室長の柿崎充氏による講演「そのデジタル変革、目的が間違っていませんか(生産性向上にしてませんか)?」の内容をレポートする。
デジタル変革の本質はプラットフォーム革命
柿崎氏はSansanでデジタル戦略をリードする一方、一般社団法人CDO Club Japan事務局マネージャーも務める。企業のデジタル戦略やデジタル変革にさまざまな知見を持ち、経験の共有や取り組みに対する支援も行う人物だ。そんな柿崎氏は、まずデジタル革命について次のように話を切り出した。
「デジタル革命の本質は中央集権型から分散型への移行です。このパラダイムシフトによりさまざまな変化が起こります。典型的なものは『貨幣』です。ブロックチェーンの登場で、今後は貨幣ではなく価値(信頼)を交換するようになると言われています。組織も中央集権的な階層構造から分散し、フラットなチェーン型になるとされます」
こうした変化は遠い先の未来ではなく、すでに足元で起こっている。例えば、「タクシー業界を破壊する」と話題になったUberは、海外ではタクシー業界だけでなく鉄道などの交通機関すら破壊する存在になりつつあるという。
Uberの時価総額は約8兆円で、日本企業のランキングで言えば6位に相当する。そして、そのアプリの開発コストは3万8000ドル(約400万円)で開発期間は4カ月ほどだ。このように低コスト/短期間でビジネスにを立ち上げられる理由は、他社が提供しているサービスをAPIでつないで開発しているためだという。「開発の在り方が根本的に変わったのだ」と柿崎氏は説く。ただし、これは生産性が向上したというだけの話ではない。
「生産性には、『労働生産性』と『資本生産性』の2つがあります。労働生産性は働き方改革によって、資本生産性はコーポレートガバナンス改革によって向上できるものです。そして、デジタル革命はこの2つを包含しています。例えばUberのような取り組みは、社内の生産性が変わるだけでなく、シェアリングエコノミーによって個人の働き方も変わります」(同氏)
囲い込まず、相互につなぐことで生まれる価値
デジタル変革の本質は生産性の向上にはない。もし社内の生産性向上を目的にデジタル変革に取り組んでいる企業がいるなら、気づかないうちにデジタル企業から破壊されているかもしれない。「その部分を強く認識する必要がある」と、柿崎氏は主張する。
「アナログ企業とデジタル企業があり、アナログ企業はデジタル企業に破壊される存在です。実は、Sansanもアナログ企業です。アナログ企業がデジタル企業に破壊されないように変身するための手段がデジタル変革であり、デジタル変革の本質はプラットフォーム革命にあります」(同氏)
現在、企業のビジネスモデルは、これらのプラットフォーム型か、従来からのプロダクト型かに2分されつつあるという。ゴールドマンサックスの定義では、プラットフォーム企業とは「外部の生産者と消費者、あるいは外部の情報やモノ、サービス資源などを相互に結び付け、価値を生み出す企業」のことだとされている。参入障壁を築き、事業を囲い込む従来のビジネスとは正反対のモデルで、参入者が増えるほどイノベーションが起きる確率が高まるとされる。
「プラットフォーム企業の基本的な考え方は、生産者と消費者を結び付けるものです。ただ、プラットフォーム戦略はもう少し複雑で、複数の市場を対象にすることがポイントです。例えば、GoogleやAdobeなどが良い例ですが、収益を得る市場(クローズ領域)と、普及を促す市場(オープン領域)というように、2つの市場でサービスを展開しています」(柿崎氏)