10月4日、アイ・ティ・アールは「ポスト2020を見据えた持続的成長のシナリオ」をテーマに掲げた年次カンファレンス「IT Trend 2018」を開催した。本稿では、同社 取締役/シニア・アナリスト 舘野真人氏の講演「デジタルワークフォース活用のビジョンと戦略」で解説された内容と、ITエグゼクティブに向けて語られた提言を紹介する。
必要なのは新たな戦略的ワークフォース
昨今、日本企業は、働き方改革への取り組みを急ぐのと同時に人手不足の問題に直面している。厚生労働省の労働力調査のデータを見ると、2005年と2015年の就業者数はそれぞれ6,356万人と、6,401万人。その差は少ない。高齢者の再雇用や女性の結婚/出産後の復職などが進み、人員数自体は維持できているからだと見られる。
だが、総務省と厚生労働省の予測によれば、2020年以降に200万人~500万人の減少が見込まれ、「今人手不足に困っているならば、さらにその問題は深刻化します。この事実を頭に入れて労働力の調達を考えてください」と舘野氏は警告する。続けて、最新テクノロジーを活用し、人手不足を解消したいという相談も増えているが、短絡的にソリューションに飛びつくのではなく、戦略的に新しいワークフォースを調達してほしいと呼びかけた。
この「新しいワークフォース」が、舘野氏の講演のテーマである「デジタルワークフォース」だ。これは、テクノロジーを活用して人間の力を拡張したり、作業を代替させたりすることで得られるワークフォースなのだという。デジタルワークフォースの要素として、舘野氏は「能力」「作業」「場」の3つが必要だと説明する。「この3つが噛み合わなければワークフォースにならない」とし、それぞれをテクノロジーで拡張することが不可欠だと続けた。
人間の「能力」を拡張する:AI
「能力」の要素を拡張するテクノロジーはAIである。ひとくちにAIと言っても、その範囲は広い。舘野氏は、AI技術を画像認識や音声認識、OCRのような事象の把握のための「知覚/認識」、言語解析や探索、翻訳のような「ナレッジ化」、予測、推論、レコメンドのように意思決定を支援する「判断」の3つに整理した上で、その活用方法について解説していった。
例えば、今まで目視で確認していた施設入場者の男女比のデータ取得、審査業務の効率化、タクシーの配車など、さまざまな事例が登場しているが、必ずしもこれらの技術実装を最初から自分たちでやる必要はないという。公開されている学習済みのAIサービスを使うのも手だと舘野氏は説明し、「視覚系」「音声系」「言語系」「知識/検索系」など、利用可能な各種サービスを紹介した。
一方、留意点として挙げられたことが2つある。1つは、成果を得るためにデータ活用の成熟度を高める必要があることだ。データを収集しているだけだったり、個人レベルでの分析に留まっていたりするのであれば、意思決定や施策の最適化にAIの力を使うことは難しい。もう1つは結果の伝え方だ。セルフサービスBIやモバイルアプリからのアクセスのように、共有が容易な仕組みも登場している。「組織的にデータ活用の成熟度を高めることや結果の伝え方を工夫してほしい」と舘野氏は強調した。