労働人口の減少対策や働き方改革の一環として、HR Tech(Human Resources Technology)が注目されている。ミック経済研究所が2018年2月に発行した「HR Tech クラウド市場の実態と展望 2017年度版」によると、2018年度の同市場は前年比143.9%増になる予想だという。

HR Tech市場のなかでも注目されているのが、「タレントマネジメントシステム」だ。タレントマネジメントとは、従業員の才能(タレント)を可視化し、企業の人材戦略にのっとって人材の育成/配置/評価を実行する仕組みを指す。すでに米国では外部人材の採用や、退職者の予測でも、同システムを活用している。

2011年設立のサイダスは、クラウドベースの人材プラットフォームである「CYDAS HR」を提供するベンチャー企業だ。2018年6月に同社取締役CTO(最高技術責任者)に就任した吉田真吾氏は、「日本のHR業界は、他業界と比較してIT化/デジタル化が遅れている」と指摘する。

サイダスで取締役CTO(最高技術責任者)を務める吉田真吾氏

「HR分野をデジタル化し、データ活用を活発化させるためには、全ての従業員が利用しやすいタレントマネジメントシステムが必須である」と訴え、「現場が簡単にタレントマネジメントシステムを使えるようになれば、人材の有効活用は進む」と説く吉田氏。サイダスはどのような戦略でHR市場を攻めるのか。話を聞いた。

「利用者視点」の重要性

――「日本のHR業界はIT化が遅れている」理由は何ですか。

CYDAS HRの「パーソナルプロフィール」画面。従業員の「タイムライン(入社からの経過時間)」を軸に、「いつ」「どこの部署で」「どのメンバーがいるチームで働き」「どんな研修を受けて」「どんな評価を得たのか」が一目でわかるようになっている(画面提供:サイダス)

吉田氏:システムやUI(User Interface)が「管理者視点」であり、「利用者視点」「ユーザーフレンドリー」といった観点はほとんど重要視されていないことです。

多くの企業は人事管理をExcelなどのスプレッドシートで管理していますが、これでは一般の従業員は利用しにくい。そのため情報の更新頻度が低く、さらに使う人が少なくなるという悪循環をたどっています。

実は、この課題はすぐに解決できるのです。今、多くの人がスマートフォンやタブレットでWebアプリを利用していますよね。私は、過去に顧客企業のWebアプリ構築を支援していました。その経験から言うと、WebアプリのUIをまねするだけでも、利用者視点の使いやすさを追求した製品はできるのです。

サイダスは「現場の人が使いやすいシステム」であることを追求し、CYDAS HRを開発しています。例えば、従業員ごとにタイムラインを設け、「(その従業員が)入社から現在までどこの部署で働いたか、誰と働いたか」が一目でわかるような構成になっています。

――企業がサイダスの製品に求めているのは何だと捉えていますか。

吉田氏:目的によって異なると考えています。人材管理のプロファイルデータベースを構築したいという場合もあれば、(育成の)目標管理に活用するデータベースとして人材情報を整理したいという場合もあります。

また、企業買収や部門合併など、異なる2つのシステムを統合する際に、共通のデータベースとして利用したいというケースもあります。さらに、「メインで利用している他社製品はUIがオフコンみたいで使いにくいので、UIはサイダス(の製品)を併用したい」という要望もありました。

――日本企業は米国企業と比較し、タレントマネジメントシステムの活用が遅れているとの指摘もあります。その実感はありますか。

吉田氏:日本企業には現場レベルで改善を繰り返し、さまざまな課題を解決する文化があります。人事システムは企業によって異なりますから、一概に「(米国と比較して)遅れているとは言えないでしょう。とはいえ、日本でタレントマネジメントシステムを活用して後継者の育成計画(サクセションプランニング)を実現している企業は少数派です。

ただし、事業部長レベルの方からは、「10年後に経営に携わる候補者を発掘したい」との相談を受けることもあります。これまでこうした人材発掘は、部門ごとに保存されているデータを寄せ集め、手動で(データ分析などの)作業をしていました。これをシステムで実行できないかという相談です。

もっとも、こうした要望は、数千人以上の従業員を擁する大規模企業特有のもので、ある意味”ニッチ”な機能です。将来的に追加機能/製品として提供する選択肢もありますが、現時点では考案中です。