今、脳科学ビジネスが世界で注目を集めている。神秘のベールに包まれた器官「脳」の働きを解き明かし、さまざまな領域に活用していこうという試みがそこかしこで行われているのだ。日本でこの分野に積極的に取り組んでいるのが、NTTデータである。
1月25日に開催された「NTT DATA Innovation Conference 2018」において、NTTデータ テレコム・ユーティリティ事業本部 ビジネス企画室課長 ニューロビジネスチームリーダーの矢野亮氏と、情報通信研究機構(NICT) 脳情報通信融合研究センターの西本伸志が登壇。「脳情報通信技術が拓く新たなビジネスと未来社会」と題し、脳科学ビジネスの現状と今後の展望について講演を行った。
日本は遅れ気味!? 脳情報通信技術の「今」
矢野氏は2001年にNTTデータ入社後、主に通信事業者システムへの企画・営業を担当。2014年にニューロビジネスを立ち上げ、脳科学ビジネスに従事してきた経歴を持つ人物だ。2017年11月には脳情報通信技術の事業化研究を行う「脳情報通信ビジネスラボ」も立ち上げている。まさに脳科学ビジネスの第一人者だと言えよう。
そもそも脳情報通信技術とは何か。
人間の脳には「ニューロン」と呼ばれる神経細胞が張り巡らされており、これが発火する(ニューロン細胞内外の電位差が急上昇する)ことで、認知の状態や感覚体験といった情報が表現される仕組みになっている。
こうした脳の情報をfMRI(ファンクションMRI)や、EEG(脳波)といった手法を用いて計測するのが脳情報通信技術だ。さらに現在では、そこから得られたデータをさらに機械学習で解き明かし、介入することもできるようになっている。例えば、リハビリなども一種の脳への介入だと言える。
読み取った脳の情報を活用して機械と接続する試みも進んでいる。麻痺患者がロボットアームを操作したり、脳波でドローンをコントロールしたり、さらには睡眠中に見ている夢の内容の解読・再構成したりすることも可能になりつつあり、こうした「人の脳と接続するインタフェース」は「BMI(Brain Machine Interface)」と呼ばれている。
現在、世界では脳科学関連産業が急成長の兆しを見せている。脳デバイスの開発に大企業が莫大な投資を行っており、今後さらに注目を集める産業となるのは間違いない。
一方で、「日本は脳科学ビジネスについては遅れ気味なのが実情」(矢野氏)だという。少しでも現状を打開するため、NTTデータは昨年、矢野氏が中心となって産学共創プロジェクト「脳情報通信ビジネスラボ」を始動させた。今後の進展に期待したいところだ。