感動や共感を得られる企業SNSアカウントとして名前の挙がることの多い日本航空(JAL)。その秘訣はどこにあるのか。
昨年12月に開催されたデジタルマーケティングの未来を考えるイベント「T-CONFERENCE」(トライベック・ストラテジーら主催)に、日本航空 コーポレートブランド推進部 Webコミュニケーショングループ長の山名 敏雄氏が登壇。「非航空利用時における生活者とのコミュニケーション戦略」と題する講演を行ったので、その模様をお伝えしよう。
フライト選びの基準、実は……
皆さんは、飛行機で移動する際、航空会社をにどういう基準で選んでいるだろうか。
かつてはシートの品質の良さや機内食の豪華さ、マイルなどが要因になることが多いと考えられていた。また、格安航空券やLCCが広まってからは、価格も大きな要因になったと言われている。
だが、実際のところは、そこが一番大きな要因ではないようだ。
「調査/分析の結果、気持ちの部分で航空会社を選んでいる人が多いことがわかってきました。気持ちというのは『なんとなく好き』『なんとなく嫌い』ということです」と山名氏は話す。
とは言え、なんとなく好きになったり、嫌いになったりするのにも理由がある。
一番強いのは「子供の頃おじいちゃん家に遊びに行くときに使っていた」「トラブルにあったときに対応しくれた人が親切だった」などの過去の体験だ。
そうした体験を作ることができればそれに越したことはないが、日本人の多くは、飛行機に乗る機会が年に何度もあるわけではない。航空業は、小売業や飲食業のように顧客と日常的に接することが難しい業態なのである。
そこでJALが注力しているのがSNSである。
「なんとなく好きという気持ちを作っていくために、飛行機に乗らない日のブランド体験が重要になってきます。飛行機に乗らない日に『いいね』という感情をどう醸成するか。そこでいろいろなコミュニケーション戦略を考えるようになりました。今、日本航空のマーケティング戦略の中心にあるのはSNSの公式アカウントです」(山名氏)
JAL公式Facebookアカウントは、実名顔出し投稿
SNSの運用に際して、JALではいくつか指針を設けている。
例えば、Facebookでは実名顔出しが基本だ。
2011年4月6日に投稿されたFacebook開設2日目の記事では、ボーイング767の機長が今まさに搭乗しようというタイミングで自身の写真とともにこう綴っている。
「これからJAL4457-4558便、羽田-山形間の臨時便を担当します。その大きさゆえ配慮すべき部分もありますが、念入りな準備を行い、安全運航で多くのお客さま、物資そして想いを乗せて飛ばせて頂くことで東北復興活動の輪に入れればと願っています」
この投稿は、東日本大震災の発生からまだほどない時期。機長は心に期するところがある表情をしている。
これに対してFacebook上では、「The JALという感じ。本当にいいお顔です」「気持ちが伝わってきます! 一緒に頑張りましょう」「被災地と私たちのハートをつなぐフライトとして皆さんの気持ちをたくさん運んでください!」といったコメントが多数寄せられた。
また、子供の日を前日に控えた投稿では「明日の本番に向け、ただいまJALで整備中!?」と題し、エンジンに鯉のぼりの塗装を施している整備工場の様子を紹介した。
エンジンの吸気口が鯉のぽっかりと開いた口にそっくり。ユーモア溢れる投稿には2.1万もの「いいね!」がついた。