4月27~28日に開催された「IBM Watson Summit 2017 Tokyo」の基調講演に楽天の執行役員である茶谷 公之氏が登壇し、楽天のAIに対する取り組みを紹介した。茶谷氏の講演の模様をお届けする。
楽天は4月26日にIBM Watsonを活用した「楽天AIプラットフォーム」を構築したことを発表した。楽天AIプラットフォームは、カスタマーサポートへの自動応答機能を備えたチャットボットを導入するために構築された社内向けシステムだ。
AIが仕事を奪うわけではない
楽天 執行役員の茶谷 公之氏 |
Watsonが提供する自然言語処理、会話制御などのAPIや、楽天のAI関連技術、カスタマー対応に関するデータベースを活用している。
茶谷氏は、こうした内外のAIソリューションを楽天内のサービスに商用導入するための推進役を担っており、楽天AIプラットフォームの開発と運用も担当する。
茶谷氏はまず、AIが持つ意義について「コンピュータ中心から人間中心へとパラダイムをシフトさせていく」と切り出し、こう説明した。
「今はまだ、コンピュータが理解できるように我々ユーザーから情報を伝える必要があります。例えばWebを検索するためには、検索のためのキーワードを思いつかなければ目的のものを探し出すことが難しいでしょう。探したいものに近づいたり、遠ざかったりするといった体験を日常的に行っています。AIはこういった課題を解決するポテンシャルを持っています」
AIが仕事を奪うというセンセーショナルな話題を耳にすることが多い。だが、人間中心へシフトするという意味は、実際には仕事がなくなるのではなく、コンピュータがやったほうがうまくいく領域はコンピュータにまかせ、人間はコンピュータが苦手な、複雑で創造的な領域を担っていくことになるという。
楽天のAI活用、3つのフェーズ
楽天では、そうした将来に向けたAI活用を、大きく3つのフェーズに分けて考えている。
第1フェーズは、「ルーティンタスクをAI化」するフェーズだ。このフェーズでは単純作業は機械にまかせ、人間はより複雑な非ルーティンタスクを担っていく。
第2フェーズは、「意思決定をAI化」するフェーズ。このフェーズでは意思決定を機会に任せる代わりに、人は戦略的な役割を担っていく。
そして、第3フェーズは「コラボレーションをAI化」するフェーズだ。多くのAIが稼働するとAI同士が協調動作するようになるため、人間はクリエイティブな役割を担っていくことになる。
「このフェーズでは、曖昧な意図をAIが理解してくれます。人がコンピュータに歩み寄るのではなく、コンピュータが人に寄り添う世界がAIによって実現しています。それはまさしく、コンピュータ中心から人間中心の世界にシフトするのです」
ユーザーの属性や趣向を把握してレコメンドするショッピングAI
楽天では、そういった世界の実現を目指し、いくつかの実験的な施策を進めてきたという。
例えば現在プロトタイプを開発している「ショッピングAI」もその1つだ。ショッピングAIとは、買い物をする際に、ユーザーの意図をシステムが読み取り、適切な商品やサービスを候補として表示するような仕組みだ。
「例えば、『来週の金曜日に渋谷で子供の5歳の誕生日会を』といった要望をシステムに伝えます。すると、AIは、登録情報などから、子供を男の子と類推し、誕生日のためのケーキやプレゼントを提案します。誕生日会を開くためのレストランやプレゼントの選定は、楽天市場や楽天ダイニングなどのサービスAPIを使って実現しています」
このとき、入力欄には、「誕生日会を何人で開催するか」「プレゼントの予算はいくらなのか」といった条件も自動的に追加され、目的に沿ったショッピングが簡単にできるようになっている。
「楽しい」「かわいい」、定性的表現にも応えるAI
買い物をする際には、文字で表現できない商品を探す場合もある。例えば「もっとかわいい商品を」といったニーズだ。こうしたニーズにこたえるインタフェースのプロトタイプ「ファッションコンシェルジュ」を開発中だ。
例えば、スマートフォンで「インディゴのシャツを見せてください」と言葉で音声入力をすると、インディゴの色にあった商品を一覧表示する。そのうえで「もっと赤い」と伝えると、再検索して、赤く見えるインディゴのシャツの結果を表示する。
ユニークなのはここからだ。「もっと楽しい」と伝えると、楽しく見えるインディゴのシャツを、「もっとかわいい」と伝えると、かわいく見えるインディゴのシャツを提案してくれる。
「写真から画像認識を使って色情報を取り出し、その色情報に基づいて数百万のアイテムを色空間の中に配置します。色空間の中に配置された商品群に対して、インディゴと指示をすると、商品上はブルーとか青と記載されていても、インディゴに近い色を持った商品をAIが見つけてきてくれます」
ポイントは、文字として入力した商品情報によらず、すべての商品を直感的に検索できることだ。また、AIにさまざまな学習をさせることで「楽しい」「かわいい」といった文字にしにくい情報まで探すことができるようになった。
「時刻、場所を問わず、お客様と対話することは、AIによる自動化が実現するおもてなしの1つです」と茶谷氏は話す。