4月26日から28日にかけて東京コンファレンスセンター・品川で開催された「ガートナー ITインフラストラクチャ&データセンター サミット 2017」。ガートナー ジャパン リサーチ部門の主席アナリスト、蒔田佳苗氏のセッション「スマート・マシンのあるワークプレース:考えるべき『人』の視点」では、ワークプレースへのスマートマシンテクノロジーの普及を背景に、そうしたテクノロジーの導入検討で押さえるべき「人に関する考察」の視点から議論が繰り広げられた。
スマートテクノロジーをどう使う? - 早期導入企業の事例
日本でも、ワークプレースにスマートテクノロジーを導入する動きは見られ始めている。先行する導入企業では、どのような成果が上がっているのだろうか。蒔田氏は、「人手不足・負担増加の解決策として、既に効果が出始めている」と説明する。
例えば、最適化・遠隔支援の事例としては、製造ラインやエネルギープラント、建造物・IT保守などの導入領域において、メガネ型のスマートグラスによるマニュアル表示、遠隔指示・情報共有、組み立て・保守・点検・査定・トレーニング支援などといった活用が挙げられる。そのほか、自衛隊の南スーダンへの派遣において、隊員がスマートグラスを着用し、リアルタイムで状況判断を促すといった活用がなされている。また、羽田空港ではこの春から警備員がスマートグラスを着用しているという。
さらに、メガネ型スマートグラスを通じて誘導指示、リモート音声操作をすることで測量作業支援を行った建設現場では、それまで2人で手掛けていた作業が1人でこなせるようになっただけでなく、作業時間の大幅な短縮も図ることができたという。
「これは、会社も作業者も、そして顧客も全てがハッピーになれたケースです」と、蒔田氏は語る。
ガートナー ジャパン リサーチ部門 主席アナリスト 蒔田佳苗氏 |
次に、新しい価値提供の事例として紹介されたのが、健康保険組合が導入した従業員の生活習慣改善プログラムである。これは、従業員にリストバンド型のスマートデバイスを装着してもらうことで、日々の健康管理に役立てようという取り組みだ。スマートデバイスでは心拍数をモニターしており、年齢や体重などに応じて最も脂肪燃焼効率の良いタイミングを知らせるなど、利用者の運動をサポートする。これは、健康増進だけでなく、病気の予防、ひいては保険料軽減を目指した取り組みだと言える。
もう1つ、最適化の事例として挙げられたのが、AIを活用した自然言語によるコールセンターの自動化だ。顧客情報やFAQの表示など、オペレーターの業務をマシンがサポートする。
こうした成功事例はあるものの、多くの日本企業にとって、ワークプレースへのスマートテクノロジーの導入にはさまざまな障壁が存在するのも事実だ。例えば、「効率化=人員削減」という正確ではない理解から来る現場からの反対や、現場の要求をIT部門が却下したり、うまくいかなかったときのリスクに経営者が及び腰になったりするケースが挙げられる。
では、早期に成功した事例では、これらのハードルをどう乗り越えたのだろうか。「そこには、『ピープルセントリック』と『段階的戦略』という共通項があります」と、蒔田氏は説明する。
例えば、「検討」の段階では、技術ありきではなく、今ある現場の課題から、ユーザー視点での効果を狙うようにし、次に「規模」の検討ではスモールスタートを心掛ける。そして、「設計」段階ではあれもこれもやるのではなく松竹梅の「梅」を目指し、「開発」段階においては、素早く作って、素早く改善する。そして最後の「展望」段階では、次の一手と長期ビジョンを平行して検討し、課題だけでなく新たな価値にも着目するのである。
「重要なのは、トライアル・アンド・エラーを繰り返していくこと」だと蒔田氏は強調した。