富士通は5月18日、東京都千代田区の東京国際フォーラムにて「富士通フォーラム 2017 東京」を開催した。
「Human Centric Innovation : Digital Co-creation」を掲げた今年、基調講演には富士通とともにイノベーションを実現したさまざまなクライアント企業、パートナー企業が登壇。AIなどを用いた先進的な事例を紹介した。
以下、基調講演の模様をご紹介しよう。
農業AI活用で、初年度から安定生産
富士通フォーラム 2017 東京は、代表取締役社長の田中 達也氏による野菜の紹介とともに幕を開けた。
ステージに置かれた野菜は、スマートアグリカルチャー磐田(SAC iWATA)によって生産されたもの。SAC iWATAは、昨年4月に富士通、オリックス、増田採種場によって設立された企業である。
農林大臣賞を5度受賞した増田採種場の種苗を使用し、「美フード」というブランドの下、柔らかくて苦味の少ない新種のケールなどを生産するSAC iWATA。増田採種場の栽培ノウハウをICTに取り込み、初年度から安定生産を実現している。磐田市で100人の雇用が生まれ、地域の活性化にも貢献しているという。
田中氏は、同社の取組について、「ICTと種苗の知識、自治体の強い意思を掛け合わせて生まれたイノベーション」と表現。「将来、日本や世界の未来を変えるかもしれない」と期待を口にした。
富士通が力を入れる3つの分野
基調講演で繰り返し使われたキーワードは、「テクノロジー」「プラットフォーム」「パートナー」の3つ。Digital Co-creationnの創造に向け、今後はこの3つを強化していくという。
テクノロジーについては、富士通の競争力の源泉が技術力にあることを強調。革新的な技術開発を続けていくことを改めて約束した。
また、プラットフォームに関しては、最先端の機能を盛り込んだビジネス基盤を提供することを約束。世界中のパートナーと連携するほか、セキュリティ面も万全を尽くし、ビジネスに貢献できるプラットフォームを構築していくという。
最後のコラボレーションについては、「『shaping tomorrow with you』という当社のブランドプロミスそのものの取り組み」と紹介。過去の経験から蓄積した幅広い分野のノウハウを活かしながら、専門力を磨き、実践力のある人材を育て、ビジネスの企画段階からメンバーに加えてもらえるよう努めていくとした。
川崎地質による陥没リスク調査
基調講演ではその後、上記の3つのポイントを体現する事例が多数紹介された。
最初に取り上げられたのは川崎地質のAI分析事例。
川崎地質では、時速50kmで走行しながら深度5m程度までの空洞を探査できる、車両牽引式マルチチャープレーダを開発。年間3300箇所もあるという国内道路の陥没を未然に防ぐための調査をしている。
これまで同社は、レーダで撮影した画像を人力で確認していた。空洞なのか、配管なのかを判定するには熟練のスキルが必要で、撮影後も相応の時間が必要だった。
この作業に富士通のAIを使用した結果、従来の1/10の時間で確認作業を終えられるようになったという。
野村證券の誤操作検知
続いて紹介されたのは、AIによる誤操作検知システムを構築した野村證券の事例。
1日に数億件の証券取引データが生まれる野村證券では、これまでもITによる誤操作検知の仕組みを構築してきたが、完全になくすことはできなかったという。これを改善するためにAIの導入を決めた。
プロジェクト開始から1ヵ月後には実証実験スタート。3月に完成し、手始めに10の業務システムで運用がスタートしている。
ゴールを共有し、富士通研究所の要素技術を使いながら要件外のアイデアも提案したことなどが高く評価された。
インドネシア KPPPA(女性強化・児童保護省)の事件管理システム
インドネシアにおいては、事件の集中管理システムを構築。年間25万件以上も虐待があるという同国の環境改善に取り組んでいる。
市民からコールセンターに寄せられた情報や、係員からの報告、SNSの情報を、富士通の位置情報クラウドサービス「SPATIOWL」に集め、事件の発生状況を見える化し、暴力を未然に防ぐ対策を検討している。
東京大学医学部附属病院にて、外国人患者向け音声翻訳を実証実験
東京オリンピック・パラリンピックに向けた総務省のグローバルコミュニケーション計画の一環として、富士通は音声翻訳システムの高度化を進めている。
特にコミュニケーションミスが許されない医療現場向けに力を入れており、NICT(国立研究開発法人情報通信研究機構)と共同開発したタブレット端末を東京大学医学部附属病院にて臨床試験中だ。
端末には、富士通の話者特定技術と発話検知技術を搭載。その上にNICTの音声翻訳エンジンを導入し、ハンズフリーで利用できる精度の高いシステムを構築した。患者の85%が使いやすいと評価するなど、円滑なコミュニケーションに一役買っている。
体操競技の採点支援システム
同じく東京オリンピック・パラリンピックに向けた取り組みとして、日本体操協会と体操競技の採点支援システムを開発中。3Dセンシングにより、選手の動きをリアルタイムに解析してモデル化することで、公正な採点に役立てようとしている。
昨年発表した時点では1方向からしか解析できなかったが、現在は複数方向から時間差でレーザーを照射することで、あらゆる角度から確認できるようになっている。