アドビは4月4日、Pan-CJK書体「源ノ明朝(げんのみんちょう、英名はSource Han Serif)」を公開した。オープンソースとして公開されており、無償で利用できる。アドビが提供するフォントライブラリ「Adobe Typekit」、ソースコード管理サービス「GitHub」からダウンロード可能となる。
Pan-CJK書体は、China、Japan、Koreaの3カ国4言語(中国は繁体字と簡体字)を統一した書体デザイン。2014年にリリースしたSerif書体「源ノ角ゴシック」に続く第2弾のフォントで、対をなすものとなる。開発にあたってはアドビのほか、日本ではイワタ、中国はChangzhou SinoType、韓国ではSandoll Communicationsが参加し、同時にGoogleも開発協力を行っている。
今、日中韓共通フォントが必要な理由
4月10日には、日本記念日協会から同日が「フォントの日」と認定されたのに合わせ、アドビが記者説明会を開催。説明会では、アドビシステムズ マーケティング本部 デジタルメディア デザイン製品担当 マネージャーの岩本 崇氏、日本語タイポグラフィ シニアマネージャーの山本 太郎氏、同 チーフタイプデザイナーの西塚涼子氏、同シニアフォントデベロッパーの服部 正貴氏、デジタルメディア タイプデベロップメント フォントデベロッパーのFrank Griesshammer氏が登壇した。
(左から)アドビシステムズ マーケティング本部 デジタルメディア デザイン製品担当 マネージャーの岩本 崇氏、デジタルメディア タイプデベロップメント フォントデベロッパーのFrank Griesshammer氏、日本語タイポグラフィ チーフタイプデザイナーの西塚涼子氏、同 シニアマネージャーの山本 太郎氏、同シニアフォントデベロッパーの服部 正貴氏 |
なぜ統一フォントが必要なのか。
山本氏は、日本、中国、韓国の文字は26文字で済む英字に対して非常に多くの文字で構成されていることに加え、人口も世界のあわせて1/4に及ぶと指摘。日中韓の文字は、構成要素が少なからず共通化できることから共通化ニーズがある一方で「これらの言語で共通して利用できるフォントの制作には莫大なコスト・労力がかかる」と話す。
実際、パソコンやスマートフォンでそれぞれの言語環境で他言語を表示すると大きさなどにばらつきがある上、それぞれの国に好まれるフォントと違うデザインが表示されることで忌避される傾向にある。日本人がよく目にする例で言えば、いわゆる「中華フォント」がそれにあたるだろう。日本語フォントが用意されていないデジタル環境で制作されたサイトや梱包物のフォントは、日本人が普段目にするフォントから大きくかけ離れており、場合によっては文字化けすることもある。
「一昔前までは、デジタルフォントが日本語用、繁体字、簡体字、韓国語、とそれぞれに合わせればそれで良かった。しかし、グローバル化が進む中で、これらの言語が混在するような環境が増えてきた。違う言語を混ぜて使うことが必要になる時代に、統一フォントが必要になる」(山本氏)
デジタル環境から広告物などの印刷媒体まで幅広く利用されることを想定して7つのウェイトを用意し、「本文から小見出し、見出し、大見出し、印刷書体で必要なものまで広くカバーしている」(山本氏)。OpenType形式で提供し、ウェイトごとに6万5535個の字形を用意。各言語のみに使用を限定したサブセット版フォントを提供するが、その他共通フォントが40MB程度のファイルサイズになるのに対し、1フォントあたり25MBまで容量を圧縮している。
なお、源ノ明朝の正確なフォント数は、1フォントですべてをカバーするSuper OTCに加えて
4言語で用いられる字形を含み、選択することで各言語に対応でき、ウェイト別に7つのフォントで提供されるOTC 7フォント
4言語で用いられる字形を含むものの、フォントごとに各言語(自国言語)で用いられる字形が優先表示されるOTF 28フォント(言語別に7ウェイト)
各言語だけで用いられる字形だけに対応するサブセット版OTF 28フォント(言語別に7ウェイト)
の合計64フォントが提供される。
源ノ明朝のデザイン意図とは?
2014年に提供されたゴシック体の源ノ角ゴシックは、「とめ」「はね」「はらい」などの細かい字の構成要素が簡略化されているため、パーツである「グリフ」の共通化比率が高かったという。一方で明朝は「源ノ角ゴシックほど共通化できなかった」(山本氏)ことで、逆説的に「明朝という基本書体が、それぞれの国で独自に発展を遂げていた証左でもある」(同)。
源ノ明朝の紹介ページにも書かれているように、日本語文字のデザインを指揮した西塚氏によると、源ノ明朝のデザインコンセプトは「日中韓、すべての国の人が気持ちよく使えること」だという。
例えば、漢字の縦画は直線を意識する一方で、懐部分は小塚明朝よりも98%縮小して細く見せた。一方でひらがなは、入角をやや強めに協調する一方で、フォルムはモダン過ぎずクラシックに、小説などに使われるクラシックな書体と、スマホ時代におけるデジタル環境でも見やすいフォントを目指している。
「(小塚明朝と源ノ明朝、リュウミンを並べたスライドを指して)小塚明朝はモダンフォントの代表格であり、リュウミンは小説のフォントとして有名です。源ノ明朝は、リュウミンの骨格を用いつつも、モダンな小塚明朝のいいとこ取りを目指したもの」(西塚氏)
例えば、電子書籍やWebサイトなど、デジタル環境でも縦書きを実現できる環境が整いつつあるのに合わせ、縦書き表示に合わせたフォントの表示になる仕掛けも用意しているそうだ。
ちなみに、「源ノ明朝」という名前は、フォント制作並みに時間がかかったと西塚氏は話す。