ITエンジニアの間でも話題になることが多い、業務起因の精神障害。厚生労働省の発表によると、情報通信サービス業は、2015年度に労災認定された精神障害の件数で5番目、請求された件数で3番目という状況だ。
本人も気付かぬうちに患いはじめると言われる精神障害。果たして、防ぐためには何が必要なのか――。
Studio Gift Hands 三宅 琢 氏。産業医、労働衛生コンサルタント、メンタルヘルス法務主任者などの資格を持つ。神戸理化学研究所の客員研究員としても活躍。国家戦略特区プロジェクトで現在建設中の「(仮称)神戸アイセンター」にも携わる |
個人で働くプロエンジニアを支援するPE-BANKが開催したセミナー『「IT × 医療」IT産業医が語る。すごーい! MedTech』にて、産業医、労働衛生コンサルタント、メンタルヘルス法務主任者などの資格を持つStudio Gift Hands 三宅 琢 氏が解説したので、その模様をお伝えしよう。
過労死は日本特有の現象
「過労死は英語でなんて言うか、知っていますか?」――三宅氏の講演はこのような問いかけか始まった。
問題の答えは「Karoshi」。日本語がそのまま英語として使われている。
「なぜ、日本語がそのまま英語になっているのかというと、過労死が日本特有の問題だから。寿司、相撲、過労死。これらは悲しくも世界で通用する代表的な日本語です」(三宅氏)
日本でしか起こらないのはなぜなのか。最大の理由は、「労働時間の長さに加えて、日本人に無趣味が多いから」(三宅氏)だという。
「産業医として多くの面談をしてきた中で、うつ病の兆候が表れた人に一番多い共通点は、趣味がない、または趣味の時間がとれていないこと。逆に趣味が多く、週末は趣味の時間で充実している人は、うつ病に悩むケースが少ない傾向にあります。趣味は、強制的にやるものではなく、やりたいからやるわけです。本人が楽しんでいるので、良い息抜きになります。真面目な気質の日本人には遊ぶ能力が決定的に足りなく、うつ病になりやすい国民性とも言えます」(三宅氏)
三宅氏は、趣味があると、危険な予兆に気付くこともできるとも続ける。
「例えば、釣りが趣味だった人でも、なんだか楽しくなくなって、川や海に行かなくなるというケースがあります。メンタル不調という観点では、これは大きなサイン。そこで気付くことが大切。産業医面談で聞いていくと、面白くなくなったので趣味をやめ、悪化していったという方も少なくありません」(三宅氏)
読書でも、カフェ巡りでも何でも良い。好きだからやることが何かあればメンタル不調には陥りにくくなる。注意したいのは、趣味を作るのを目的としないこと。そして、できれば、「職場のメンバーとは関わらず、素の自分でいれるものがおすすめ」(三宅氏)という。
食う、寝る、遊ぶの”悪化”に気付け
上述のとおり、趣味がつまらないと感じるのは一つの兆候だが、三宅氏によると、そのほかにも気にするべきポイントがある。”こじらせない”ためには、それらを察知して対処することが一番大切だという。
「風邪をひいたかなと思ったら、体温計で熱を測って状態を確かめますよね。でも、メンタル不調については測る道具がありません。そこで気にしてほしいのは、『食う』『寝る』『遊ぶ』の3つのポイントです」(三宅氏)
「食う、寝る、遊ぶ、この3つで以前よりも悪い傾向が表れていないか、自分を振り返ってみてほしい」と三宅氏。例えば、「食う」なら食欲が落ちた、「寝る」ならぐっすり眠れなくなった、あるいは睡眠時間が減った、「遊ぶ」なら前述のとおり、面白く感じなくなった、といった傾向だ。
もし悪い傾向があったら、処置が必要になる。施すポイントは大きく2つ、「ストレス」と「睡眠」だ。
ストレスに関しては、ストレスの要因を洗い出して減らすこと。睡眠に関しては、質の良い睡眠を十分にとれるよう生活習慣を変えること。
具体的にどうすればよいのか。続いてご紹介しよう。