AI、IoT、VR/ARなどの実用化が進む中、最新ITの活用で小売業はどこまで変わるのか――リテールテックJAPANでは、マイクロソフトとアクセンチュアの合弁会社アバナードが、こうした問いへのヒントを提示した。ARによる棚割り、MR活用の仮想試着、AIによるシフト調整をストーリ仕立てで解説。将来の業務形態を想定するうえで有効なので、紹介していこう。
VRが加速するFuture Retailの世界
アバナードのデジタルIoT リードディレクター 星野 友彦 氏 |
3月7~10日に開催された「リテールテックJAPAN」(主催: 日経新聞社)のセミナーに、アバナードのデジタルIoT リードディレクター 星野 友彦 氏が登壇。「VRが加速するFuture Retailの世界」と題し、小売業におけるVR/ARやAIボットの活用事例を紹介した。
アバナードはマイクロソフトとアクセンチュアの合弁会社として2000年に設立され、国内では2005年からビジネスを展開する企業だ。コンサルティングからシステム構築までを手がけ、社員数はグローバル3万人、国内400人に及ぶ。
マイクロソフトの技術を知り尽くした製品導入の支援が最大の強みで、リテール分野でもNRF(全米小売業協会)の主催イベントにスポンサー参加するなど、小売業のデジタルビジネス化をグローバル規模で支援している。
カスタマーエクスペリエンス向上にデータを活用
星野氏はまず、小売業を取り巻く動向について「ECの登場以来、オンライン上でデータを収集し、活用し続けたデジタルリテーラーがオンライン、実店舗を問わず、成功を収めています。オフラインからオンラインへの動き、オンラインからオフラインへの動きが進むなかで、データが大きくものをいう世界になっています」と解説した。
データを生かす最大のポイントがカスタマーエクスペリエンスの向上だ。アバナードの調べでは、カスタマーエクスペリエンスで他社と差別化を図っている小売業は全体の3分の2に達する。
また、カスタマーエクスペリエンスを改善するために、ユーザーからフィードバックを得ようと考えている企業は52%と過半数を占める。「技術の進歩を踏まえながら、常にカスタマーエクスペリエンスを向上させていこうという企業だけが生き残っていける状況」(星野氏)になってきているのだ。
小売業、3つの成功ストーリー
では、先進的なデジタルリテーラーになるためには、どうすればいいのか。
そうしたユーザーからの問いに対して、アバナードでは3つの成功ストーリーをもとに、具体的な対策をイメージしやすいようにしているという。ストーリーには、登場人物として顧客のペルソナも設定されている。
ARで棚割りシミュレーション
1つ目は、顧客の理想的なライフスタイルの実現に向けて、さまざま提案を行う食料雑貨店のストーリーだ。ペルソナは、幼い子供のいる共働き家庭で健康を気にしている女性Maryと、食料雑貨店のイベントマネージャー/デモ担当の女性Amyだ。
Maryは、スマホアプリを使って、自分の好みや栄養の目標、レシピを店側に伝えている。イベントを開催する際は、Amyがそうした顧客の情報を見ながら、AR機能を搭載したタブレットでイベントを企画する。タブレットでは、それぞれの顧客がどんな食品を好み、どの位置で手に取るかシミュレーションしながら、棚割りができるようになっている。
イベント開催中、Amyは、実際の人の移動パターンや販売状況をタブレットでリアルタイムに把握できる。また、Maryはオンラインで注文することも、今訪れている店舗で購入することもできる。レジでは、オンラインでの注文分もあわせてその場で決済できる。
このストーリーでポイントになる仕組みの1つがARだ。イベント前には、実際の店舗と同じ空間内を使って、棚割りを行うことができる。またイベント中は、店舗の天井近くに浮かび上がった仮想のディスプレイに販売状況をリアルタイムに表示する。
「ARを使えば、棚割りのシミュレーションや情報ディスプレイの設置といった現実的には難しい取り組みも、既存の店舗を改装することなく行うことができます。こうした新しい体験により、店舗での購買意欲は33%増加するというデータもあります」(星野氏)