小売店におけるモバイル決済端末の導入は、iPadなどで稼働するモバイルPOSアプリの伸長とともに増えている。主にクレジットカードの読み取りニーズで決済端末が利用されてきたが、ここのところはApple Payの日本上陸もあり、電子マネーへの対応も重要視され始めている。

以前取り上げたリクルートライフスタイルの「Airペイ」もその一つで、以前より提供していたクレジットカード対応の決済端末から電子マネー/ポイントプログラム対応の決済端末へ、昨秋に切り替えを発表した(「クレカと交通系電子マネーに初めて両対応」 - リクルートのモバイル決済「Airペイ」が狙う対面型200万店舗)。小売店における決済ニーズは小口決済も少なくなく、交通系ICが全国的に普及している環境では、電子マネーも割安で導入できるのであれば「是が非でも」といったところだろう。

そんな決済端末の一つを導入したKDDIは、電子マネー対応も去ることながら、auショップにおける”ある課題”の解決のために導入を決定した。導入経緯や、モバイル決済の考え方について、同社 バリュー事業本部 金融・コマース推進本部 auWALLET推進部長の中井武志氏と、三菱UFJニコス アクワイアリング推進企画部 ネットワーク企画グループ担当 次長の市川岳志氏に話を聞いた。

KDDI バリュー事業本部 金融・コマース推進本部 auWALLET推進部長 中井武志氏(右)と、三菱UFJニコス アクワイアリング推進企画部 ネットワーク企画グループ担当 次長 市川 岳志氏(左)

電子マネーを”お手軽”に

三菱UFJニコスが提供しているモバイル決済端末「BluePad-50」の導入をKDDIが発表したのは2016年10月25日、Apple Payの提供が開始された日だった。

「Apple Payの提供開始に伴い、お客さまのモバイル決済に対するニーズが高まるタイミングに合わせてスタートしたいと考えていました。決済手段はこちらが決めるのではなく、お客さまが選択するものなので、以前よりできるだけ多くの手段に対応したいと考えていました。

また、auショップにお客さまがいらっしゃると、待ち時間が生まれたり、なんとなく店内を回ってスマホアクセサリを探す。そうした場でauショップ店員が対応できるようにと考え、可搬式のモバイル決済端末を検討しました。各社話を聞いていましたが、電子マネーを含めた多彩な決済手段への拡張性の高さが大きな要因でした」(中井氏)

KDDIが導入したBluePad-50は、クラウド型マルチ決済システム「J-Mups」がバックボーンとなっており、専用線を引く従来型のシステムと比較して1/3~1/4程度のコストで導入できる。

「このモバイル決済端末は数年前から提供していますが、KDDIのようなニーズだけでなく、電子マネーやクレジットカードごとに増やしてきた複数台の決済端末を集約したいといったニーズなど、業種・業態、規模、環境によって課題はそれぞれ違います。一方で大きなニーズとして電子マネーがありましたが、今回の導入が初めてのモバイル決済端末のケースといえます。どこの会社さんも『電子マネーに対応する』と言っていますが、おそらく最初の事例ではないかと思っています」(市川氏)

三菱UFJニコスの主戦場は、カスタマイズされた自社POSを用意している大規模事業者と、Squareやコイニー、楽天スマートペイなどの小規模店舗の中間層。電子マネーとモバイル決済端末の親和性は高く、ニーズの掘り起こしも期待できる。

「競合も確実に電子マネーはキャッチアップしてくると思いますが、我々のバックボーンにはJ-Mupsがあり、VisaやMasterCard、JCB、DinersClub、AmericanExpress、銀聯など、多彩なブランドに対応できます。もちろん、デバイスとしての魅力では、従来の大型の”箱”を必要とせず、よりお客さまの近くでタッチポイントを作りつつ、その場での決済処理が可能になる。オペレーション上のメリットも非常に大きいと思っています。

私たちとしては、モバイル決済端末を用意したことで加盟店に対してのメニューが拡充できたのも大きなポイントです。据え置きタイプのものだけでは、対面接客のお店をターゲティング出来ていませんでした。そうしたお店に対しても喜んでいただけるラインナップを作れたと思っているので、この流れを広げていきたい。レジアプリと連携可能なインタフェースも用意しており、各社との連携も視野に入れています」(市川氏)

最大のメリットは「セキュリティ」

モバイル決済端末とJ-Mupsの魅力はそれだけではないと市川氏。最大のメリットは「セキュリティ」だと胸を張る。

「J-Mupsが重要視しているのはセキュリティです。これは、お店にとっても、お客さまにとってもという意味で、『デバイスにカード番号を保存しない』『PCI DSS対応』などの諸条件を、このシステムだけでクリアできる。お店からすると『クレジットカードはセキュリティ基準が厳しい』と敬遠しがちでしたが、この課題をクリアできるからこそ、普及できるポイントになると考えています」(市川氏)

PCI DSSはクレジットカードのセキュリティ基準で、デバイスからWebサイト運用上のデータ保存の取り決めまで、さまざまな細かい要件が求められる。(関連記事 : クレジットカードのセキュリティ基準「PCI DSS」への対応が必須なワケ)