昨年11月に取り上げたNTTデータと東北楽天ゴールデンイーグルスの「野球の練習をVRで - NTTデータが楽天と協力して見つけた「課題」と「成果」」。プロ野球選手の高い次元のプレトレーニングとしてVRを活用したこの事例は「VR活用」というキーワードのエンタメ以外における活用の顕著な例といえる。
一方で同じ野球であっても、より一般向けに、エンタメ要素を色濃くしたコンテンツ制作を行っている会社がある。それがテレビCMなどの映像制作会社として知られる「AOI Pro.」だ。なぜCM制作会社がVRコンテンツを作るのか。AOI Pro.の経営企画部 VR/ARプロジェクトチームでプロデューサーを務める松井 公平氏に話を聞いた。
CM制作会社がVRに挑む理由
「AOIはCMをコアに、『短い時間で心を動かすこと』を考えてやってきました。映像コンテンツの先に『VR』がある。そう捉えて、映像ノウハウを活かしてコンテンツを作れないかという話になりました」
もともと、CM制作は単純な映像撮影だけでなく、CG、プロデュースという総合力が必要になる。これらの要素はVRコンテンツにおいても重要であり、「持ち合わせているリソースがマッチしていると判断し、AR/VRへの取り組みを2016年春に構想、7月に動き出しました」(松井氏)。
AOIが制作した「VR DreamMatch - Baseball」は、バスキュールの企画によるもの。体制は子会社のデジタルガーデンを含む6名~7名のチームで、2名のプログラマーがUnityを使ってコンテンツを制作した。プログラマーはテレビCMで車のCG制作などを行っており、その腕にも定評がある。当初はNTTデータ同様のトレーニング用途も考えたそうだが、利用したデバイス「HTC Vive」を体験して考えを改めたそうだ。
「もともとUnityが使える人間がいたので、開発スピードを上げるためにHTC Viveを採用しました。モバイルデバイスなどでも映像体験としてみればある程度のクオリティのものは出せると思うんですが、体験コンテンツとして考えた時に大切なのは『デバイス』と考え、Viveに絞りました。ただ、いくら体験と言っても、Viveの性能を体感した時にトレーニング利用には耐えないと判断し、『いかに臨場感を得られるか』にフォーカスした制作を目指したんです」(松井氏)
VR Dream Matchでは、ミットとバットを持つことで、捕球やスイング時のインパクトをバイブレーションによって疑似体験できる。実際に試す機会を用意してもらったが、”仮想大谷”の165kmの直球は「ただただ怖い」の一言に尽きる。投手の手元を離れた瞬間にミットに突き刺さり、バットを振ろうとすると振り遅れのファールばかり。エンターテインメントを意識して作られた通常のボールの大きさの数倍のボールを、同じく数倍のバットで打てるモードで辛うじて当てることはできたが、「プロ選手の凄さ」を改めて知るいい機会となった。
「映像の見せ方」が差異化に繋がる
ただ、2016年がVR元年とされ、さまざまな企業がVRコンテンツ開発に勤しむ今、AOIの「CG制作」の強みがどこまで通用するかは不透明だ。そこで松井氏は、その他の強みとして「映像制作ノウハウ」と「ライツ(著作権)」を挙げる。