ビッグデータ信奉から脱却した2016年

2016年は、企業のデータ活用に関する注目度が引続き高まった一年となった。

ガートナー ジャパンでデータ活用分野の分析を担当する、リサーチ部門 アプリケーションズ マネージング バイス プレジデントの堀内 秀明氏は、この一年を振り返り次のようにコメントする。

ガートナー ジャパン リサーチ部門 アプリケーションズ マネージング バイス プレジデント 堀内 秀明氏

「2012年頃から”ビッグデータって何?”という話をしていたのが、”もう少し地に足のついたところでデータを活用しないといけないよね”という言葉をさまざまな企業、多様な局面で耳にするようになりました。それと今話題のAIに関して、自分たちのビジネスを大きく変える要素であり、AIとデータとをうまく結びつけねばと考える人も増えました」

AIを含めて、これまでデータを集計していただけだったのが、何かそれ以上のことができるのではないかと、特に経営者を中心に強く考えるようになってきたのが2016年の印象だという。

一方で、データやAIを活用して新しく何かできるのではと言いながらも、肝心の”何を”するのかという部分で多くの企業が戸惑っているという側面もある。

「どこの企業のIT部門も目の前の課題に追われていっぱいいっぱいの状況。まず効率的に仕事をこなせるようにしなければ、その次のステップになどとても踏み出せないというのが、さまざまなITリーダーが訴えている本音です」(堀内氏)

そうした事情を背景に企業の熱がさらに高まったのが「セルフサービスBI」なのだという。

「セルフサービスBIという言葉は、ビジネスに携わる大勢の人々の心に強く響くようになりました。セルフでデータを可視化できるのであればIT部門も現場も楽になるので飛びつくわけです。しかし、いざ導入してみると、『ExcelやAccessでやっていたのとどこが違うのか』という疑問が生じがち。セルフサービスBIに対する理想と現実のギャップにユーザー企業が悩まされた一年だったと感じています」

Excelの代替は簡単ではない

ガートナーが提唱する、ITとビジネスの”2つの流儀”を指す「バイモーダル」のうち、不連続的であり、俊敏性とスピードを重視する「モード2」において主役となるのはビジネスの現場だ。

データ活用の世界にもモード2を重視する流れが訪れており、そこではプロセスはあまり重視されず、やりたいことができるという結果の方に重きが置かれることになる。

例えば、クラウドベースでExcelデータを集めて共有できるようなサービスがあちこちから提供されており、それらのツールは特にBIと名乗っていないものの、現場の人々に好んで利用されている。情報システム部門にしても、すべてのITの面倒は見きれないため、最終的には現場任せという節がある。

「こうして多岐にわたるデータ分析ツールが存在する中、確実に使えるツールは何かとなると実はExcelだったりします。そのため多くのユーザーが、Excelのままでもよいのか、それともやっぱりいけないのかという問題で悩んでいるのです」

Excelが苦手とするのが共有だ。ファイルサーバーに置いて共有するケースが多いが、資料のバージョンがいくつも存在したり、それとは別にメールで送られたファイルが最新版だったりと、管理が難しくなくなりがちだ。

ただし、こうした共有の課題をセルフサービスBIであれば解決できるのかというと、必ずしもそうではない。あくまで個人のアカウントで使用することを想定したツールが多いからである。

「2016年は、ともすればセルフサービスBIにばかり話題が集まりましたが、ダッシュボードの提供やレポートを組織内の人々に見せることに重きを置いたトラディショナルBIも依然として大事な存在であることを再認識すべきでしょう。トラディショナルBIと、セルフサービスBIのようなモダンBIは、どちらが優れているかと比べるものではなく、目的に応じて使い分けるべきものなのです」